憲法47条の「選挙区」とは?

 まあ、「いつも批判しかしない」「いつも揚げ足取りしかしない」と思われても仕方ないんですが…。(´・ω・`)

 しかし、せっかくの機会なので、ブログにまとめておきます。




1.発端

 (Twitterでフォローするようになったからだけれど)たまたま目にしたのが、次のツイート。

 ご指摘のとおりですが、憲法は選挙区の存在を前提にしているので近似値的平等を許容していると考えています。 RT @donnoijp: @ito__makoto 一人一票を実現する為には全国一律にする以外には無いと思っています。全国区にすれば解決しますが、そこから始めてはと思います。

 引用元:http://twitter.com/ito__makoto/status/22549300214

 この、donnoijp氏に対するito__makoto氏のレス(ツイート)が引っかかりました。

 (もちろん、donnoijp氏のご意見がどうなのかは別にして…*1。)

 つまり、「全国区にすれば解決します」*2に対するレスとして、なぜ「選挙区の存在を前提にしているから」と述べられたのか?、「前提」という言葉を使わない、よりワカリヤスイ説明の仕方ができたと思います(例:「全国区」以外の選択肢の存在の「許容」)。

 また、その「前提」が、なぜ「近似的平等を許容している」につながるのか?が、よくわかりませんでした。少なくとも、このツイートからは明らかではありません(他のツイート(過去のツイートを含む。)から明らかなら、「私の見落とし」ということで…。)。



 ご両人の意図を想像しつつ、もう少し具体的にいうと、まず、donnoijp氏は、全国を1つの選挙区とすれば、1票の格差はなくなるという主張。

 それに対して、ito__makoto氏は、「憲法は選挙区の存在を前提にしているので近似値的平等を許容している」と答えられた。例えば、衆議院議員選挙は、現在、小選挙区比例代表並立制を採用している。小選挙区の部分についていうと、小選挙区選出議員の定数は300人(公職選挙法4条1項)、小選挙区とは当該選挙区から1人の議員を選出する選挙区であるという定義上、選挙区も300*3。300も選挙区があるので、各選挙区の人口(または有権者)を同数にするのは至難の業だ。このような選挙区制の存在を憲法は「前提」にしているので「近似値的平等を許容している」のだ。

 うん、私も、ito__makoto氏のイイタイコトは分かる。ただ、投票価値の平等を追求する過程で、「全国区」と「選挙区」と、ご両人が志向する政策が「異なる」、ことをすれば足りるところを、どうして「憲法は選挙区の存在を前提にしているので」とおっしゃったのか?

 もしかして「選挙区」の中に、「全国区」を含まないと考えられたのではないのか?(たぶん違うけれど。)

 「選挙区の存在を前提にして」も、「全国区」並の投票価値の平等(1対1)を追及すべきなのではないのか?「近似値的平等」とはどの程度の格差を許容するものなのか?

 このような意味で、逆に、(従来の議論は周知のことであるからいう必要はないかもしれないけれど)、投票価値の平等を追及しつつも、1対1ではなく、従来の学説は、衆議院選挙の場合、1対2*4を限度とすると主張していたり…、1対3まで許容している立場・許容しているとみられている立場とかもあったり…、するわけだけれど、このような立場も、「近似値的平等」を追及したものではないの?(´・ω・`)*5



 以上で、おおむね、「私の疑問」は書いたことになると思うので*6、以下のことを書く必要はないんだけれど…。

 まあ、試験にはあまり関係ない部分(ゆえに教科書・テキスト等には触れられていない可能性が高いけれど基礎的な部分)について、紹介したいと思います。



2.憲法47条の「選挙区」とは?

 (1)まずは条文

第四十七条  選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

 「選挙区」については法律事項だと。これに対して、例えば、両議院議員の任期・参議院の半数改選は憲法事項だと(45・46条)。そういうふうに「覚える」条文であるかもしれない。

 また、この条文に関連して、選挙制度には小選挙区大選挙区があるとか、その長所・短所とか、日本の国政選挙は(小)選挙区・比例代表併用制をとっているとか、両議院の定数とかを「覚える」かもしれない。

 そういうのとは別の話をしようと…。「選挙区の存在を前提にしているから」に関連したところを。

 (2)最高裁判例の1つ

 1票の格差に関する最高裁判決はたくさんあるけれど、1つだけ紹介。平成4年の参議院議員選挙に関する
最大判平成8年9月11日の判決文を一部引用。*7


 憲法は、国会の両議院の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(四三条、四七条)、どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の広い裁量にゆだねているのである。
 〔中略〕  憲法は、国会を衆議院参議院の両議院で構成するものとし(四二条)、各議院の権限及び議員の任期等に差異を設けているが、その趣旨は、衆議院参議院とがそれぞれ特色のある機能を発揮することによって、国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにある。右の二院制採用の趣旨を受け、参議院議員選挙法(昭和二二年法律第一一号)は、参議院議員の選挙について、衆議院議員のそれとは著しく趣を異にする選挙制度の仕組みを設け、参議院議員二五〇人を全国選出議員一〇〇人と地方選出議員一五〇人とに区分した。

 要するに、憲法は、「選挙区」について法律事項にしているが(47条)、二院制の採用(42条)の趣旨を受けて、参議院選挙制度として、法律上、選挙区・比例代表並立制を採用していると…。

 憲法の「選挙区」と、法律上の「選挙区」を混同してはイケませんよと…。

 ちなみに、伊藤真氏の著書・編書のもので最近のもの*8、チョットだけさがすと、この判決を紹介しながら、このような大元の説明をしているのは、伊藤塾伊藤真の判例シリーズ1 憲法』(弘文堂、2005年)526ページくらい?

 伊藤真憲法 第3版 (伊藤真試験対策講座 5)』(弘文堂、2007年)とか、伊藤塾伊藤真の条文シリーズ5 憲法』(弘文堂、2007年)には大元の説明ではなく、より試験に出やすい、より論点チックな事項だけを…。(´・ω・`)



3.後日談

 まず、ito__makoto氏の後日のツイート、http://twitter.com/ito__makoto/status/22651208452から推測するに、「前提」=「許容」のつもりだったと。まあ、誤解を招く言葉を使うことや書き間違いは誰でもあることだし、(前の時からそうだけれど)ご多忙だからレスは期待していない。

 で、これだけをもってito__makoto氏の行状を判断することは、私にはできないし、やってはいけないけれど、思わぬところから反応がwww。

 まあ、いずれにせよ、教科書とか、それを「丸写し」・微妙にズレた記述の受験用テキストに、上の「選挙区」の話が出ているかどうか、確認してみるだけでも価値がある鴨。



 長い駄文を読んでくださり、ありがとうございました。m(_ _)m

*1:揚げ足取り出したらキリがないというか、自分と意見が違うという理由だけで、個々人のご意見批判するつもりは毛頭無いので…。と書いたほうがいいのか、書かないほうが良いのかよくわからなくなってきていますが…。

*2:比例代表制にすれば解決します」もあてはめ可能かも。

*3:当たりまえか…。

*4:ちなみに、例えば、人口数・有権者数からみて最大選挙区・最小選挙区の格差で2対1だった場合、有権者1人あたりの1票の価値は1対2となる。「数」「価値」が逆数になる点に注意が必要、っていうのも当たりまえだのクラッカーかな…。こういうところを聞いて来る試験問題もあるとかないとか、そんなこと知らないんだからねっ!

*5:まあ、「某団体関係者の論考を嫁」ということになるのかもしれないけれど、「キャッチフレーズだけ」で1対1の重要性を強調するのには無理があるのではないかと…。情緒的にではなく、理性的に説明して納得して貰わなくてはダメなのではないかと…。「外国ではこうだ」という情報提供をするにしても、Wikipediaレベルで良いのかどうか…。

*6:ツイートではもっと書いていたか…。「解釈論と運動論を区別せよ」とか…。

*7:http://twitter.com/siganaikenpou/status/22550436996は、別の判決の意訳だが、そんなコマケーことは、気にしない。o(´・ω・`)o

*8:いろいろ出版されているので、すべてをフォローできてません。海外在住で、このエンダカの折…。(´・ω・`)ソレデ エエンダか・・・スマソ。