出典明記に用いる文献の選び方

 今月13日にhttp://twitter.com/siganaikenpou/status/21053931396で予告したわけですが、こんなに日にちがたってしまいますた。(´・ω・`)ヤルキノモンダイ・・・




1.発端

 原因は2つあるのですが、契機になったものを1つだけ。もう1つは最後に。

http://twitter.com/nagisatt/status/21047978158
http://twitter.com/nagisatt/status/21048191063
http://twitter.com/nagisatt/status/21049943520
http://twitter.com/nagisatt/status/21050304271
http://twitter.com/nagisatt/status/21050565597

> @kento337 論文があるならば、そうでしょうね。
> @kento337 その場合には、最初にその説が登場した版を引用します。初版とか、第2版とか。

 nagisattさんのツイートのみ引用。内容把握のためには、相手方のツイートも引用する必要があるかもしれませんが…。

2.私の直感
 ただのぢょしこーせーの私の「直感」は次のとおり。

 そもそも、若い弁護士先生の「準備書面」を実際に読まないと何とも言えないけれど、
 論文の書き方の本にはそこまで書かれていない・そんなに厳密には決まっていないのでは?
 「…が通説である」と書かれている部分であれば、潮見教科書を使っても、一応問題ないのでは?
 論文と教科書、両方を注で示す人もいれば、どちらか片方だけの人もいるのでは?
 版を重ねていれば、最新版が基本なのでは?

 「直感」だけをブログに書くのはマズイかなと…。*1  厳密にはしていないけれど、典拠を示してみようかと(出典を調べるのには時間がかかったのだ…。時間がかかる原因の大半はやる気の問題だけれど…。)。

3.直感の検証
 パパ*2の書棚から、30冊ほどナナメ読みしてみたけれど、私の問題関心からすれば、予想通り、引用形式(表記の仕方)にとどまっているものが多いんぢゃないかなあと*3。  つまり、「論文の書き方」の類の本はたくさんあって、それらには、当然「いろいろな約束事」は書かれているけれど、私の問題関心からすれば、「カユイところに手が届いていない」希ガス
 もちろん、私の見落とし・誤解に由来するのかもしれないけれど…。
 で、私の問題関心からし参考になりそうな部分が、たまたま、いくつか見つかったので、その部分を引用するテスト。(´・ω・`)  なお、その前に言っておきますが、私のブログは、恣意的な引用をしているかもしれないし、「論証=典拠を示すだけ」というように、「論文としての最低限のルール」を守っている保証を完全に放棄しているので、ご自身で手にとって確認する・できれば書物全部に目を通すことをお勧めします。m(_ _)m

(1)「『…が通説である』と書かれている部分であれば、潮見教科書を使っても、一応問題ないのでは?」に関して

 たとえば、「××と解するのが通説(注○)がある。」という場合の注○で指摘されるべき文献については、現在の状況を描写するものですから、「横綱とふんどしかつぎを並べるな」ということがあてはまるでしょう。

 引用元:弥永真生『法律学習マニュアル 第3版』(有斐閣、2009年)230ページ*4

 これは、「『…が通説である』と書かれている部分であれば、潮見教科書を使っても、一応問題ないのでは?」に対応する部分ですが、これだけだと、「横綱・ふんどしかつぎ」の説明をしないとイケなくなるか…(1つ前のページに例を含めて説明あるけれど…)。
 というわけで、別の文献から引用(なお、文字化け防止のため、丸数字を括弧数字に改めた。強調部は原文の太字部分。)。

 (3)通説の典拠を引用するときは、代表的なものにとどめる
 たとえば、債務不履行について、履行遅滞履行不能不完全履行という3分類を採用するのが通説である、というとき、有斐閣双書などの純粋に学生向きの教科書、実用書(『何が何でも債権回収』といった類の本)、はては予備校の教材まで引用する必要はない。代表的ないくつかの体系書で十分である。

 引用元:大村敦志ほか『民法研究ハンドブック』(有斐閣、2000年)276ページ

 「有斐閣双書は純粋に学生向きの教科書」なのか?というような素朴な疑問はさておき、潮見教科書は、最近の「代表的な体系書」なのでは?
 nagisattさんの「通説的な説明をする場合にはオーソドックスな文献」には、潮見教科書は入らないのだろうか?(´・ω・`)
 まあ、「いくつか」とあるので、最近のもので言うと、内田教科書を筆頭に(?)「いくつか」挙げたほうがいいかもしれないけれど…。
 コンメンタール『注釈民法』が筆頭なのかなあ…。まあ、改訂されない・続きが出ない『注釈け(ry』
 ただ、先にも言ったように、「そもそも、若い弁護士先生の『準備書面』を実際に読まないと何とも言えない」わけで…。(´・ω・`)

 さらに言うと、「××と解するのが通説(注○)がある。」の「××」が特定の学説(例:我妻説)をさす場合、特定学説の論文・教科書を注記したほうがより丁寧。
 そして、それは、次の話に関連するわけですね…。

 (2)「論文と教科書、両方を注で示す人もいれば、どちらか片方だけの人もいるのでは?」に関して

 古い雑誌論文の多くは、今日、著書の論文集に収録されている。その場合、どちらで引用すべきか。プライオリティを重視すれば、雑誌で引用すべきだが、読者の参照の便を考えると、論文集のほうがベターである。できれば両方とも引用することが望ましいが、目的により区別してもよい。

 引用元:広中俊雄=五十嵐清編『 法律論文の考え方・書き方 (有斐閣選書R)』(有斐閣、1983年)61ページ〔五十嵐執筆部分〕

 これは、「初出」「のちに…に所収」に関連する「初出の雑誌か?論文集か?」って話でした…。(´・ω・`)
 |ω・`)っ「【ゆる募】出典になる文献」
 ってところでしょうか…(^^;。
 (話は脱線しますが)同じ人・同じ内容の文献を引用する際に、「どの雑誌が格上か?」って話もあるとかないとか…。*5

 (3)「版を重ねていれば、最新版が基本なのでは?」に関して

 現代作家に関しては、複数の版本が存在する場合には、できるなら、初版または最終補訂版から個々のケースに応じて引用することだ。以後の版がたんに初版を再版しただけのものならば、初版から引用し、また、最後版が修正、付加を含み、新しく現代化されているのであれば、最終版から引用する。

 引用元:ウンベルトエーコ(谷口勇訳)『論文作法─調査・研究・執筆の技術と手順─ (教養諸学シリーズ)』(而立書房、1991年)190ページ

 nagisattさんの「最初にその説が登場した版を引用します。初版とか、第2版とか。」という点に対応しますね。
 ただ、実際問題として、邦語文献ですら、すべての版に当たって、「最初にその記述が登場した版」から引用しているのかあ…。
 例えば、外国文献の文脈で書かれたものだけれど、

 もっとも出典が欧文のばあい、どれが最初の版なのか定かでないばあいはある。その意味では、引用すべき対象が明確さを欠くといわれるかもしれない。だが問題は、そこにあるのではない。どの版の何版を引用するにせよ、それと引用した内容の一致こそが重要であることを忘れてはならないからである。

 引用元:広中俊雄=五十嵐清編『 法律論文の考え方・書き方 (有斐閣選書R)』(有斐閣、1983年)130ページ〔香川達夫執筆部分〕

 同書58ページ(五十嵐執筆部分)の「学説史的研究」という部分も合わせ読む必要が出てくるだろうけれど、さて、「前からある記述の場合、最新版ではダメ」という説明あるだろうか?(´・ω・`)  まあ、ここも、  |ω・`)っ「【ゆる募】出典になる文献」
 ってところでしょうか…(^^;。


 例えば、「駆け出しの無名の人はやっちゃダメ」とか「減点事由だ」と言われることがあるとしても、実際に、それを言うエロいセンセが実際にやっていたり、内容が良ければ……
 いやー、その前に、はたしてそのようなものが「常識」となっているのか?(「常識を知らないお前が悪い!」)
 「明文」になっているのかどうか?(代表的な文献に出ているから、「読んでいないお前が悪い!」)
 という問題関心なのですが…。

4.最後に
 以上、ダラダラと書きましたが、雑にまとめると、「私の直感が正しい」ということを完全に証明する典拠は見つからなかったということで…(おい。
 まあ、「たたき台」程度に書けたと自画自賛しますが…。
 で、なぜ、これを書いたかと言うと、冒頭に書いたように、nagisattさんのツイートがあったからだけではないのです。
 具体的には述べられませんし、狭い井戸の中にいると大海を知らないからなのかもしれないけれど、
 「常識なるもの」が「常識」として定着しているのか?
 「古き良き時代」の「経験者」だから、「常識」と思っている部分があるのではないか?
 「血脈相承」的な部分、「共同体」的な部分が、今日ではなくなりつつあるのではないか?
 それにどう対応すべきかなどと思っていて、このような形で公表したという次第です…。(´・ω・`)

*1:「腰だめはダメ」という話は、例えば、http://d.hatena.ne.jp/shiga_kenken/20100101#1262339969参照。なお、http://twitter.com/tedie/status/21365910617の重要性を否定しているわけではないのであしからず…。

*2:ピル・ゲ○ツ…、(´・エ・`)

*3:引用形式については、例えば、http://www.law.co.jp/okamura/jyouhou/houinyou.htmの「? 文献の表示」を参照。

*4:余談になるが、この本のある箇所(正確には「法学教室」連載部分)について、某センセイが激怒したらしい。「そんなことでいいのか!」と…。いや〜、「上には上が、下には下が」…。「パダワン」に理想的な(?)ハードル見せたほうが良いのかどうか…。

*5:まあ、この点についても、かりに「論文の書き方」に載っていないとしても、論文読んでいるとわかってくるものだそうですが…。執筆者の価値観の違いもあるし、肌感覚となると人によって違う部分もあったりなかったり…。