「法律の一般性」は必要か?・その3(事例を1つ)

 1年前に調べた文献を読み直したり、新たに読んだりしようとしたのですが、結局のところ、ちちとすすまず…。(´・ω・`)





 前回、一応、学説の結論と「今回取り上げる事例」との関係は説明したので、書く必要はないのかもしれませんが、「法律の一般性」を考える上で、何か「ヒント」になるかもしれないので、書いてみることにします。



 今回取り上げる事例は、前回予告したとおり、「学校法人紛争の調停等に関する法律」(昭和37年法律70号、閣法)。

 条文は、http://www.shugiin.go.jp/itdb_housei.nsf/html/houritsu/04019620404070.htm



2.「学校法人紛争の調停等に関する法律」について

 (1)名城大学事件

 自分で書くのが面倒なのでw、コピペ。

 ・「学校法人紛争の調停等に関する法律」は、学校法人紛争の調停一般に関する法律として制定されているが、実際には、名城大学の紛争を処理するためのものとして制定されたものである(そのことは、法律の審議過程からも明らかである)。このような個別的法律については、法の一般性という観点からは、きわめて疑義がある。

 引用:“慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科2006年度(春学期)立法政策論”の第8回レジュメ(doc文書)3ページ(担当:柳瀬昇氏)

 これで、法律の内容自体はさておき、条文読まなくても、何を問題にしているのかは、大体わかるはず…(マテ。

 さて、「法律の審議過程」が出てきたので、その証拠を。

(a)“衆議院会議録情報 第040回国会 文教委員会 第13号(昭和37年3月14日)”
 ○米田委員
   まずお伺いいたしますが、本法案を成立せしめて適用せんと考えておられるような大学なり学校、事件、紛争、そういうものがありましたら御指示、御発表願いたい。
 ○荒木国務大臣
   当面率直に申し上げて名城大学の問題以外にはなかろうと思います。その意味でこの法律案そのものが名城大学紛争処理法案ではないわけでございますから、当然のこととしては申し上げかねることはありますが、御質問の御趣旨は、現にそういう対象となるようなケースの学校があるかというお話でございますと、名城大学以外にはなかろうと思っております。

(b)“参議院会議録情報 第040回国会 文教委員会 第10号(昭和37年3月27日)”
 ○政府委員(杉江清君)
   この法律そのものは、現にそのような事実があるということを前提としているわけではございませんが、しかし、この法律を作る原因の実態は、ただいまお話しのような事実が名城大学に存じておる。そのことのためにこの法律を制定するに至ったという事実があるわけでございます。
 ○千葉千代世君
   そういたしますと、その具体的な対象というのは、現在、名城大学一校だけでございましょうか。
 ○政府委員(杉江清君)
   さようでございます。

 というように、名城大学1校のみを念頭に置いた法律(案)だったというわけですね。



 さて、法律が制定されて、当該大学に適用され、それをめぐって、裁判となった。

 その代表的判決が、東京地判昭和38年11月12日(昭和37年(行)第75号、行集14巻11号2024ページ、判タ155号143ページなど)*1
 さて、判決は次のように述べた。

 調停法の立法の過程において被告と国会の議員団との間に原告主張のような約束があつたとしても、調停法はその約束のような学校法人名城大学の紛争という単一の事件のみを規律として成立したものでないことは法文上明白であるから、調停法がそのような法律であることを前提とする原告の主張〔=調停法は特定事件についての行政措置であつて憲法上認められた「法律」とはいえない違憲の法律であるという主張〕は理由がないことが明らかである。

 この部分ですが、前回も紹介したように、「法律の一般性」を強調する学説についても、一般的な形式を整えているがゆえに、それ以上異議を唱えられていなかったわけですね…*2

 また、結論としては合憲だとしても、「理由づけとしては説得力に欠ける」*3とされる方もおられるけれど、その方も、「理由づけの問題」にとどまるのでしょう…。もちろん、「理由づけの問題」は非常に重要ですが…(^^;。



 (2)千葉工大事件

 前回紹介した大石和彦論文にしても、初宿正典論文にしても、なぜか紹介されていないので、書いてみることにします…(^^;。

 まあ、これも、調べればすぐわかったので、書く必要はないのかもしれませんが、昨年、一応調べたので…(^^;。



 さて、取り上げる判決は、東京地判昭和39年4月1日(昭和38年(行)第10号、行集15巻4号691ページ、判時368号2ページ、判タ160号111ページなど)。
 先の判タ155号143ページの判決と同じ裁判官による判決です。

 この事案は、上の名城大学事件では調停が開始されたのに対して、それとは逆に、調停の申立てが却下されたことに対する取消訴訟

 つまり、原告が、所轄庁である文部大臣に調停開始の申し出をしたところ、これを却下されたため(昭和38年2月1日)、その取り消しを求めた事件。

 結論から言うと、地裁は、請求を認容した(とうぜん、昭和39年4月1日)。

 そこで、被告が控訴。

 その後、昭和39年4月30日で法律の期限が切れる(ただし、例えば、期限前に、地裁の判決を尊重して調停が開始されていたら、期限後も効力が残る。附則4条参照。)。

 結局、東京高判昭和40年2月16日(昭和39年(行コ)第21号、行集16巻2号328頁)は、訴えの利益を欠く、とした。

 そういうわけで、調停が開始されなかったのですが、論文に取り上げる必要のない事案なのでしょうか?

 法律の要件を充たしていたのであれば、調停が開始されてもよかった(そのような可能性も存在した)ともいえないでしょうか?



 さて、所轄庁は、なぜ却下したのか?

 「名城大学のみ」と国会で明言したせいなのか、「調停法の立法の過程において被告と国会の議員団との間に原告主張のような約束があつた」からなのか、「私立学校側からは、所轄庁の権限強化として反対もあった」*4ことに配慮したのか、法律の要件を充たしていないことが明白だったのか、よく知りませんが、

 すくなくとも、“参議院会議録情報 第046回国会 法務委員会 第18号(昭和39年4月9日)”の政府委員の答弁は、「歯切れが悪い」希ガス…。




 さて、結局のところ、この法律は、1つの学校法人に適用することを念頭にしつつも、一般性の形式を備えた法律が制定され、結果的には、その学校法人にのみ適用された、とされているわけで、一般性に関しては、あまり異論が唱えられていないわけです。

 はたして、こんにゃくゼリー規制*5は「法律の一般性」に反するのでしょうか?

 次回は、ドイツ基本法19条1項1文の話を…(もちろん、ただの受け売りであって、原典にあたられたほうがいいと思いますが…(^^;。)。

*1:ちなみに、高見勝利『芦部憲法学を読む 統治機構論』(有斐閣、2004年)114ページには、「名城大学事件(東京地判昭和38・11・12 判タ155号143頁)は、行政訴訟の専門家として有名な白石健三裁判長の依頼で、芦部が研究生活に入って初めて鑑定証人として法廷で証言した事件」とあるけれど、白石氏が裁判長であり、かつ芦部氏が鑑定証人として法廷で証言したのは、名城大学事件の別判決、東京地判昭和39年1月23日(昭和38年(行)第80号、行集15巻1号134ページ)ではないかと思う。まあ、細かいことだし、一連の名城大学事件の1つであることは確かだけれど、一応、ネットに書く理由の1つであり、1年前調べていて気がついたことであるので…(^^;。ちなみに、芦部信喜(聞き手・高見勝利)「国法学から憲法訴訟論へ」大石眞ほか編『対談集 憲法史の面白さ (日本憲法史叢書)』(信山社出版、1998年)276ページには、「私は昭和39年に初めて東京地裁で、名城大学事件(東京地判昭和38・11・12 判タ155号143頁)について、私立学校紛争処理法と当時いわれた法律の合憲性について、鑑定証人で証言したことがあります。・・・。裁判長は白石健三という有名な行政訴訟のベテランの方でした」とあり、判タ155号143ページの判決の翌年の昭和39年に証言したとなっています。

*2:これに対して、内容面に着目して「違憲」とする見解として、例えば、『教育判例百選〔第二版〕教育判例百選 (別冊ジュリスト)』(有斐閣、1979年)168−169ページ(大沢勝・執筆)。最新版の第三版(1992年)には、この事件は取り上げられていない。

*3:小山剛『「憲法上の権利」の作法』(尚学社、2009年)45ページ

*4:“学制百年史 [第二編 第二章 第十節 三]:「学校法人紛争の調停等に関する制度の創設」”

*5:といっても、具体的な法案的な者を例に挙げないとピンと来ないとは思いますが、こんにゃくゼリー全般の規制だということにしておきましょう。つまり、少なくとも、1つのこんにゃくゼリー業者ではないわけですね。