ドイツ連邦議会の同意なきAWACS派遣

 前回の日記に関連すること。

 あとで、手抜きして昨年9月14日のミクシの日記(友人の友人まで公開)をコピペしますが、その日記に関して。

 その日記は、「法律なくして行政が活動してはダメだろ(=超法規的措置はダメだろ)、だから、現状に合わせるべく法律を作るべきでしょ」に対するアンチテーゼとして、書いたと記憶しております。

 が、前回の日記にも関連するので、こちらにもコピペしようかと…。

 どういうふうに関連するかと言うと、村西良太「執政機関としての議会 : 「執政」概念をめぐる批判的考察」法政研究(九州大学)74巻1号(2007年)88−90ページで、あとで述べる1994年判決を好意的に評価しているが、はたして2008年判決をどう評価されるのかなあという点です。

 つまり、例えば、「日本では、義務的法律事項であるとまでは言えない。もっと行政の自律性・効率性を尊重すべきだ。」というふうに思われるのかどうか、また、それをどのように理論構成されるのか…。

 「如何なる場合であっても防衛出動に国会承認の必要を貫いているわが国の制度は、特異であるといえる。実行可能性や当否は兎も角、出動そのものを国会が統制しようというわが国のスタンスを、一貫して示していると解釈することができ、軍事的合理性が貫徹されうる他の国の例とは一線を画するものとなっている」*1そうだけれども、より「普通の国」の解釈を取られるのか?

 まあ、いずれにせよ、私の日記を読むよりは、判決原文・判例評釈、次のネット記事を読まれたほうが良いと思いますが…。

(a)川口和人「【ドイツ】連邦議会の同意なき連邦軍派遣に違憲判決」外国の立法No.236-1(2008年7月) (注意:PDF文書)
(b)水島朝穂教授HP:ドイツでも海外派遣に「違憲判決」(2008年6月9日付け)

 というわけで、以下は、昨年9月14日のミクシの日記のコピペです。

 ちなみに、「合憲・違憲」の使い方は【かなりラフ】です。(´・ω・`)




 川口和人「【ドイツ】連邦議会の同意なき連邦軍派遣に違憲判決」外国の立法No.236-1(2008年7月)
  
 http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/23601/02360105.pdf



 (以下、「本論文」という。)をざっと読んだだけのメモ。

 この分野にも詳しくなく、ドイツ語を読めないぢょしこーせーの私によるメモですので、正確性はまったく保障できません。(´・ω・`)



1.事実の概要



 イラク戦争開戦直前の2003年2月、NATOの決定に従って、ドイツ連邦政府シュレーダー政権)は、連邦軍兵士が搭乗するAWACS早期警戒管制機、非武装)をトルコに派遣した。

 連邦軍武装兵力の出動については、すでに1994年の連邦憲法裁判所判決で、原則として、連邦議会連邦参議院とは別。)の事前の同意を要するとされていた。(ボスニア・ヘルツェゴビナへのAWACS派遣:合憲)

 しかし、政府は、当該出動は、同盟の日常行動であるからと、連邦議会の同意を求めなかった。

 これに対して、当時の連邦議会野党は、「機関訴訟」を提起した。



2.判決の内容(「本論文」から一部コピペ)



 (1)武装兵力の出動に対する議会の権限

  「ドイツ連邦議会は、武装兵力の出動に際して、基本的な、権限創設的決定を行う任務を有しており、同議会には、連邦軍武装兵力の対外出動に対する責任が存する。その限りで、連邦軍は、その指揮体系にかかわらず、『議会の軍隊』なのである。」

  「防衛憲法上の議会の留保の機能及び重要性に鑑み、その範囲は制限的に規定されてはならない。むしろ議会の留保は、疑わしい場合には、議会にとって有利に解釈しなければならない。」

  「議会の留保は、権力分立の構築原理の一部であり、それを破るものではない。」



 ⇒ ドイツ連邦議会は、防衛憲法上の「議会の留保」という責務がある(国政の基本的事項は、自らが決定し、他の機関に譲り渡してはならない。その怠慢については、連邦憲法裁にきびしく審査される。)。

   議会の留保があるがゆえに、疑わしい権限は、議会にとって有利に解釈し、他の機関が決定等をしてはならない(連邦憲法裁がきびしく審査。)。このように解しても、権力分立違反ではない。



 (2)武装兵力の出動にあたる場合

  「武力紛争に引き入れられるという根拠のある予想があってはじめてドイツ軍兵士の外国への出動に議会の同意が必要となる。」(武装行動に関わらなければ同意不要。)

  「ドイツ軍兵士が武力による作戦に引き込まれることが生じているかどうかは、裁判所によって完全に審査可能である。」

  本件出動は、「防衛憲法上の議会の留保によれば連邦議会の同意を必要とする武装兵力の出動であった。」



 (3)判決の意義

   議会の同意ないゆえに違憲の判決。

   訴訟提起後、「議会関与法」施行。

   本判決当日(今年5月7日)*2、同法改正案に含まれていた、急を要する場合の連邦議会の事前承認不要という規定を削除。(下の川口論文参照。)



3.若干の検討(?)



 (1)議会の留保

   ドイツ:文民統制といっても議会重視、「重要なことは議会が決める」&「それがなされているか、連邦憲法裁が厳しく審査する」(連邦憲法裁の政治化?)

   日本:?(同じく議院内閣制の国だが、議会の力は?裁判所の力は?、統治行為論の存在。)



 (2)機関訴訟

   ドイツ:連邦議会の会派・州政府などは、国家機関の権限の範囲などをめぐって、憲法上、訴訟提起が認められている。(政争の道具?)

   日本:(合憲を前提として)法律で定められていないと認められず、このような場合には、出訴できない。個人による出訴も権利侵害を主張する必要性あり…。



 (3)政府によるAWACS派遣命令に対する統制は?

   ドイツ:議会の留保&連邦憲法裁の統制あり

   日本:?



【参考】
川口和人「【ドイツ】ドイツ版「国家安全保障会議」設置構想と連邦議会での議論」外国の立法No.236-1(2008年7月)

http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/23601/02360106.pdf

*1:青井未帆「9条・平和主義と自衛隊」安西文雄ほか『憲法学の現代的論点 第2版』(有斐閣、2009年8月)98ページ

*2:しが研注:この部分を書いたのは昨年のことなので、昨年5月7日ということです。