国家行政組織編成権の所在に関して・その1
教科書や論文って、文章の凝縮度が高いよね…。(´・ω・`)
そこを引用してコメントすれば、エントリーになるとは思うけれど、それでは、私のブログを読んでくださる、奇特ではあるが、多様な読者の方々に伝わらないであろうと思うので、つたない文章かもしれないけれど、だらだらと書くことにします…。
なお、間隔を短くしてうpできたらいいのだけれど、エントリー自体は、以下の文章くらいしか書いていません。
だからと言って、以下のエントリーを書いておかないと、先に進めないような気もするので、見切り発車的に上げることにしました。
よって、次回のエントリーは、……気長にお待ちください。m(_ _)m
さて、「何から伝えればいいのか、わからないまま時は流れ〜て」…。(´・ω・`)スマソ
0.エピソード(およびエントリーを書く理由)
まずは、エピソード。
どうしてこのエントリーを書こうと思ったのか?
8月11日の日記で紹介していなかったことだけれど、その「まだ駆け出しで、それほど憲法学に詳しくない先生」(A先生)によると、
「昨年の論文(昨年読んだ論文)の中で、最もスゴい・緻密な論文の1つ」(大意)が、
村西良太「憲法学からみた行政組織法の位置づけ : 協働執政理論の一断面」法政研究(九州大学)75巻2号(2008年)81-158ページ
http://hdl.handle.net/2324/12454
だそうな。
私の脊髄反射的な応答は、「えー、そんなにすごかった(緻密だった)ですかね…(^^;。」*1
この論点は、過去にブログで書いてきた話(たとえば、ずいぶん昔になるけれど、2006年1月8日の日記)と関連するということもあるし、新しい学説でもありブログで紹介する価値はあるということもあって、この論文を何度か挫折しつつも何度か読んだ上でのエントリーをば…(実は「ないものねだり」)。
1.問題の所在
簡単に言えば、明治憲法10条*2によると、国家行政組織を編成する権限(「官制大権」)や文武官を任免する権限(「任免大権」)が、天皇にあることを定めていた。
これに対して、日本国憲法は、73条4号*3で、「官吏に関する事務」に関して法律を要することを定めていることもあり、「官制大権」を否定しているとされる。
が、国家行政組織の編成について明文が存在しない。このことから、国家行政組織編制権の所在が憲法解釈の問題となる、ということだ。
こう書くだけで通じる人には通じるけれど…。
2.国家行政組織法を例に
多様な読者層を想定して、国家行政組織法を例に、現在の国家行政組織の法的根拠(法構造)を簡単に説明。まずは条文。
本当は、法律は最初から順番に読む(紹介する)、他の法律も読む(紹介する)ということをしないといけないのだろうけれど…。(´・ω・`)
【国家行政組織法】
(行政機関の設置、廃止、任務及び所掌事務)
第三条 国の行政機関の組織は、この法律でこれを定めるものとする。
2 行政組織のため置かれる国の行政機関は、省、委員会及び庁とし、その設置及び廃止は、別に法律の定めるところによる。
3 省は、内閣の統轄の下に行政事務をつかさどる機関として置かれるものとし、委員会及び庁は、省に、その外局として置かれるものとする。
(4 略)
第四条 前条の国の行政機関の任務及びこれを達成するため必要となる所掌事務の範囲は、別に法律でこれを定める。
(行政機関の長)
第五条 各省の長は、それぞれ各省大臣とし、内閣法 (昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣として、それぞれ行政事務を分担管理する。
2 各省大臣は、国務大臣の中から、内閣総理大臣がこれを命ずる。但し、内閣総理大臣が、自らこれに当ることを妨げない。
(内部部局)
第七条 省には、その所掌事務を遂行するため、官房及び局を置く。
2 前項の官房又は局には、特に必要がある場合においては、部を置くことができる。
3 庁には、その所掌事務を遂行するため、官房及び部を置くことができる。
4 官房、局及び部の設置及び所掌事務の範囲は、政令でこれを定める。
5 庁、官房、局及び部(その所掌事務が主として政策の実施に係るものである庁として別表第二に掲げるもの(以下「実施庁」という。)並びにこれに置かれる官房及び部を除く。)には、課及びこれに準ずる室を置くことができるものとし、これらの設置及び所掌事務の範囲は、政令でこれを定める。
6 実施庁並びにこれに置かれる官房及び部には、政令の定める数の範囲内において、課及びこれに準ずる室を置くことができるものとし、これらの設置及び所掌事務の範囲は、省令でこれを定める。
(7〜8 略)
で、ラフな整理だし、エントリーが長くなってしまうけれど、愚直に説明。
内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣によって、組織される(憲法66条1項)*4。この法律として内閣法があるけれど、そこは省略。
各省大臣は、内閣法にいう主任の大臣であるが、国務大臣の中から任命されることになっており(国家行政組織法5条)、憲法上内閣を構成する国務大臣=内閣法上の主任の大臣=国家行政組織法上の各省大臣という原則になっている。
省、その外局たる委員会・庁については、それらの設置・廃止には法律が必要であるし(3条2項)、それらの所掌事務もまた法律で定めることになっている(同4条、法律事項)。
省を例にとると、その内部の組織として、官房・局・部があるが、その設置・所掌事務の範囲は、政令で定めることになっている(同7条4項、政令事項)。
さらに、課・室を置くことができるが、その設置・所掌事務の範囲は、実施庁を除き、政令事項である(同条5項、政令事項)。
実施庁の課・室は、政令の定める数の範囲内において、置くことができるが、その設置・所掌事務の範囲は、省令事項である(同条6項、政令+省令事項)。
このことをもっとラフに言うと、各省大臣は憲法上の根拠があり、省は法律事項、官房・局・部は法律によって政令事項、になっている。
課・室については、法律によって政令事項になっているものと、省令事項になっているものがある…。
こうして見てみると、何となく、行政組織の上級組織・内閣に近い組織ほど(または、国会⇒内閣⇒行政各部というふうに考えれば国会に近い組織ほど)憲法・法律事項になっていて、逆に、末端組織に近ければ、法律の定め(法律の委任)があることによって、政令・省令事項になっているように見える…。
さて、現行法がそうなっているように見えるとして、たとえば、法律事項になっているものを、法律によって、政令事項にすることが可能なのだろうか?それとも、上位法である憲法に違反するのであろうか?
逆に、これらの組織すべてを法律で規定すべきであって、そうなっていない現行法は、違憲ないし違法と言えるのだろうか?、というわけだ…。
2.従来の学説の状況
あー、うーん、説明を書くのが面倒…。
宇賀克也『行政法概説 (3) 行政組織法/公務員法/公物法』(有斐閣、2008年4月)9−13ページを参考にして説明をば(まあこの分類に従う必要はないのだけれど、下書きとしてすでに書いてしまったので…。)。
まず、小見出しだけ引用し、括弧数字だけをつける…。
(1)行政による自律的行政組織編制権説
(2)狭義の法規概念説
(3)広義の法規概念説
(4)一般的規範説
(5)民主的統制説
小見出しだけ引用したら、わかる人にはわかるし、わからない人にはわからない…。(´・ω・`)
だからといって、長く説明するのは面倒だし、短くするのも面倒…。(´・ω・`)
まあ、ちょっとだけ説明。
その前に、なぜか、日本国憲法41条を引用。
「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。」
前段と後段に分ける。
国会は、「国権の最高機関」(前段)であるし、「国の唯一の立法機関」(後段)でもある。
で、先の学説だけれど、
「(1)行政による自律的行政組織編制権説」は、行政の自律性を重視して、行政組織権は原則として行政に帰属するという見解。
「(2)狭義の法規概念説」「(3)広義の法規概念説」は、「法規」(国民の権利義務に関する法規範)を実現するための組織には法律が必要だとする見解で2つは広狭で分類されると…(テケトーな説明だ)。そして、(3)のみならず(2)も日本国憲法41条〔後段〕の「立法」=「法規」とする考え方に整合的ではある…。
「(4)一般的規範説」は、「法規」に限らず、「一般的規範すべて」が日本国憲法41条〔後段〕の「立法」に含まれるから、組織法も含まれるという立場(のはず)…。この見解が、現在の憲法学の通説的地位?
「(5)民主的統制説」は、日本国憲法41条〔前段〕が、国会を「国権の最高機関」であると規定している点に着目し、民意を反映した国会による行政の民主的統制の一環として、基本的な行政組織編制権が国会に帰属すると解する見解。行政法学においては、この見解が最も有力らしい。41条〔前段〕の「国権の最高機関」についての憲法学の通説である「政治的美称説」は採用しないといことであろう…。
さて、(1)の立場についてさらに説明すると、「原則」とあるので、「例外」があるということだ。そもそも、「官制大権」が認められていた明治憲法下でも、明文で「法律」による行政組織編制を排除していなかったわけだし…。
逆に、とくに(2)〜(4)の立場は、「法規」との関わりで、どこまで「立法」の範囲を広げるべきかという点で争っていて、「立法」の範囲を拡大する学説が主流になったわけだが、ぢゃあ、「立法」の範囲を広げたとして、すべて法律で規定しなければならず、法律による委任すら許されないのかという意味で、【義務的法律事項】はどこまでなのか?という疑問が生じてくる。
同様に、(5)の立場もまた、「基本的な基本的な行政組織」とは何なのか?それらがすべて【義務的法律事項】と言えるのか?と、揚げ足取り的であるが、疑問に思うかもしれない…。
長くなったので、次回へ。
次回は、(以前のエントリーの延長線であるということを示す意味であるが、それ以上に)、村西論文を紹介するためにも、宇賀教科書では「(5)民主的統制説」の1つに位置づけられている「本質性理論」(厳密には大橋洋一説)からスタートすることにします(← 備忘録)。m(_ _)m
*1:ちなみに、もう1つが、福岡安都子『国家・教会・自由―スピノザとホッブズの旧約テクスト解釈を巡る対抗』(東京大学出版会、2008年1月)で、これがスゴイのは、たとえば、著者でググッてみたところ、実質第2位のURLのその「はてぶ」をリンクしておく。http://b.hatena.ne.jp/entry/www.law.tohoku.ac.jp/~hatsuru/hop/2008/02/state_church_and_liberty.html
*2:「天皇ハ行政各部ノ官制及文武官ノ俸給ヲ定メ及文武官ヲ任免ス但シ此ノ憲法又ハ他ノ法律ニ特例ヲ掲ケタルモノハ各々其ノ条項ニ依ル」
*3:「法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。」