意見の多様性と多数決・その4−3

 「徴兵制」に入って、3回目。この件は今回で終わりにして、次から「防衛費GNP1%」のほうにいければいいでつね。

 今日は、前回の続きですから、政府見解の定義のお話に関連するところです。




 (3)政府見解における「徴兵制」とは?

 まあ、この部分は、大江志乃夫「徴兵制違憲閣議決定憲法」『法学セミナー増刊/日本の防衛と憲法』(日本評論社、1981年)271−276ページや同『徴兵制 (岩波新書 黄版 143)』(岩波書店、1981年)に全面的に依拠していると言うか、私の文章を読むより、「タメになる」と思うのですが…(^^;。



 さて、代表例として、1980年8月15日の政府答弁書では、次のように定義しています。一部引用*1

 一般に、徴兵制度とは、国民をして兵役に服する義務を強制的に負わせる国民皆兵制度であって、軍隊を常設し、これに要する兵役を毎年徴収し、一定期間訓練して、新陳交代させ、戦時編成の要員として備えるものをいう…

 厳密に言葉を選んで定義されているのだろうから、細かく見ていく必要があるのでしょうが、一点だけ。

 この定義によると、徴兵制度に該当するには、「毎年徴収」する必要があります。

 「隔年徴収」だったり、「臨時に(困ったときに)徴収」する場合は、「徴兵制度にあたらない」公算が大きい…。

 実際、大江志乃夫氏によると、1980年7月、カーター政権(民主党)によって復活実施された「選抜徴兵登録制度」*2は、政府見解が言うところの「兵員を毎年徴集し、一定期間訓練して、新陳交代をさせ」る制度ではない、そうです*3

 だから、Cさんが指摘していたような「徴兵制禁止」条項を憲法改正によって設けた場合のみならず、現行憲法下における政府見解においても、「抜け道」があるのではないかと…。



 憲法改正・Cさんの話が出てきたので、ついでに「こちらでも」2つほど言っておきます。

 まず、憲法改正に関連しての件。

 (現行憲法上は徴兵制は合憲だが、憲法改正により徴兵制禁止の規定が設けられれば違憲というような形で)(憲法の)「制定法準拠主義」になっていないか?

 たとえば、次の(4)にも関連するのだけれど、「国家緊急権」の問題。この問題なら、Aさん・Bさん・Cさんに共通して言えることなのだけれど…。

 お三方のお考えによると、日本国憲法では、明文で「国家緊急権」を認めていないから、憲法改正なくして「国家緊急権」は認められないらしい。

 しかし、「国家緊急権」の例であるような「現行の有事法制は認める」わけですよね。

 「どうやって?」という疑問を持つわけです。

 「あの程度の」有事法制は、「国家緊急権でいうような過度な」人権制約・権力集中ではない?

 それとも、「有事法制は、当然認められる」っていう発想?

 お三方ともはっきりとした返答をしてくださらなかったので、以上のような疑問を持っているわけですね…。

 もちろん、井上典之「国家緊急権――非常時の憲法憲法規範の一時停止」長谷部泰男ほか編『岩波講座 憲法〈6〉憲法と時間』(岩波書店、2007年)などは読んだ上で(国家緊急権というカテゴリーを否定するが、おそらくお三方とは間逆な方向の方々の議論の存在は知った上で)、そういう疑問を持っているわけですが…。


 
 次に、Cさんのみ(?)の話。

 林修三氏が現行憲法下で導入可能であることを示唆していた「臨時的な強制的な防衛要員徴集制度」*4は、佐藤功氏は、「合憲と見ることは困難である」と指摘している*5

 BさんやCさんによると、上の「防衛要員」だと広すぎる(Bさんによると、「民間防衛」が入ってきて「広すぎる」ってことなんでしょうかね…(^^;。

 というわけで、次に、2つ目のほうとの関連で、「徴兵制」の「位置づけ」が問題になってくる…。






 (4)「徴兵制」の位置づけ

 まあ、ここは、私の文章を読むより、前出の佐藤功論文を読んだほうが、「タメになる」わけで…(^^;。

 佐藤功論文をまとめると、こんな感じの「位置づけ」になるのではと…。

 (a)予備自衛官制度(志願制ゆえに「意に反していない」)
 (b)災害救助のために国民に義務を課す(罰則つき)(通説は合憲)
 (c)防衛出動命令が発せられた場合、医療・土木建築・輸送を業務とするものに対してその業務に従事することを命令する(罰則つき。すでに、近時の有事法制により拡大路線。
 (d)「臨時的に強制的な防衛要員徴集制度」
 (e)政府見解における「徴兵制度」

 このように区分すると、どの段階まで「合憲」なのか、について、違憲説でも議論の余地はあるわけで…。

 さて、「防衛要員」って何なんでしょうね…。定義によるけれど、上の区分で言うと、(b)〜(d)の間なのかな?

 そうすると、「しが研の『徴兵制度』(『防衛要員』)の定義は広すぎる」というより、「そちらの『防衛要員』の定義のほうが広い」のでは?

 (定義はきっちり書かれていないとしても、大江論文・佐藤功論文を参考にした上でですが)「『徴兵制度』の定義が、政府見解より広い」ことが、問題あるんですかね…。

 「民兵」との区別も一応していますが…(^^;。




 ちなみに、Cさんは、名著である大江志乃夫『徴兵制 (岩波新書 黄版 143)』(岩波書店、1981年)をはじめ、私が読んだ文献のほとんどを読んだことがないし、読む気もないとのこと*6

 ある視点から見ると、「先行研究の調査」をしていないってことですよね…。

 「一人の学者のことを鵜呑みにするのは危険だ」といわれても、「定説」をねえ…。

 「素人さん」にそういうことを求めてはいけないから、と言って、その代わりと言っては何ですが、私は、「根拠を示す」と「典拠を示す」ってことを求めたんですけれどね…。*7

 確かに、Cさんは、他の方に比べると、その2つを守っておられました。「全然やっていないぢゃないか」と指摘を受けたけれど、私のほうが守ってましたけれどね(笑)。

 そういえば、Cさんが、今回のコメントのやり取りの際、別の件で紹介されたHP(紹介されたのはトップページ。徴兵制の議論では提示されなかったはず…。)に、徴兵制についても、言及されていました。

 Cさんのマイミクさんであり、彼にマイミクを解消された現在でも私のマタミクでもある方が管理するHPですが、
 http://mltr.ganriki.net/faq05n.html

 Cさんとは「違憲かどうかを法的に決めるのは政府でも議員でも学者でもなく裁判所である、かどうか」っていう話になりましたね…。このHPのコメントの常連さんですから、上記URLで引用されたりしている文章も読まれていますよね…。

*1:web情報の中で、信頼できるところから引用するという意味で、“ 「衆憲資第54 号 「刑事手続上の権利(31条〜40条)(行刑上の問題を含む)・被害者の人権」に関する基礎的資料」(衆議院憲法調査会事務局、2004年)”3ページ(PDF文書としては8ページ)

*2:ウエブ情報としては、たとえば、“Wikipedia:アメリカの徴兵制の歴史”

*3:たとえば、大江志乃夫「徴兵制違憲閣議決定憲法」『法学セミナー増刊/日本の防衛と憲法』(日本評論社、1981年)275ページ

*4:林修三「憲法と徴兵制」『憲法めがね』(財務出版、1981年)61−62ページ(初出:1971年)

*5:佐藤功「徴兵制と憲法」『憲法問題を考える―視点と論点』(日本評論社、1981年)234ページ(追補の1ページ前)

*6:ミクシでは分厚いからと紹介しなかったけれど、大江氏が参照する佐藤徳太郎『軍隊・兵役制度』(原書房、1975年)は、Cさんががお読みになられそうな領域なのになあ…。読まれていないのかな…。

*7:そういう雑誌だから仕方がないというのもあるけれど、冨澤暉「徴兵制の軍隊では間に合わぬ時代」世界週報3930号(時事通信社、1999年12月)26−27ページは、「注」がありませんしね…。軍事専門家の「常識」ってことでFA?