意見の多様性と多数決・その3−2

 昨日の日記の続きです。

 昨日の分は、要するに、

 (1)最高裁の意見には3種類あった。
 (2)その事件には、同情するから、違憲判決を出したいでしょ。
 (3)でも、「別の事件」だと、厳罰化したいと思う人が多いよね。
 (4)その「2つの感情」を整合的に説明するためにどうやって理由付けするか?
  「立法目的=正当」の立場に立つのが楽だけれど、そういうことを考えることなしに、「自分と異なる意見の人」を批判していないか?
 (5)今の法律だと、「厳罰化」することは難しいかもしれないし、また、特定の事件は厳罰化できても、それ以外はできない可能性が高い。
 (6)では、どうするか? 法律改正(の提言を)するのが「手っ取り早い」。〔← 以上、昨日の部分。〕
 (7)さて、どのような提言が存在するのか? 〔← 今日はココの部分〕





5.立法論

 これも、昨日の復習ですが、
 旧刑法200条は、尊属殺人について、死刑又は無期懲役減軽2回しても執行猶予つけられないほど刑が厳しすぎるとして違憲判決がでた。当該規定は、現在削除され、尊属殺人をしても、刑法199条の普通殺人として処理されることになっている。

 尊属殺人について、厳罰化するための「一番手っ取り早い」のは、「法定刑の下限の引き上げ」の提唱。

 しかし、「尊属殺人のみ」に限定するのであれば、刑法199条とは別の規定を設ける必要がある。

 そう、(特別法を作らなければ)新刑法200条制定の要求になります…。

 そういうふうに、思いつくままに、「選択肢」を並べつつ、「意見の多様性」「整合性」をみてみましょう…。



(1)「尊属殺重罰規定」復活派(ただし、一枚岩ではない。)
  「尊属殺人の背倫理性」を強調。
 (a)「尊属殺重罰規定」復活派
  (a-1)「正面突破」
     ∵「介護疲れによる尊属殺人の増加」*1など、時代の流れは変わった。
   (⇔批判:最高裁判例と矛盾。「かわいそうな事件」について「執行猶予」をつけることができない。つまり、「感覚の矛盾」を解消できていない!!
  (b-2)法定刑の緩和
     現在の執行猶予の条件(「3年の懲役」以下)を前提に、法定刑の下限を「6年の懲役」(1回の減軽の場合)、「12年の懲役の場合」(2回の減軽)を含むような形で法定刑にする。
     現199条の下限(5年の懲役)から見れば「引き上げ」、逆に旧200条の下限(無期懲役)から見れば「引き下げ」。
   (⇔批判:尊属殺人の背倫理性を強調できている?)
  (b-3)執行猶予の条件を緩和(「正面突破」の亜流)
    「無期懲役」でも執行猶予を付けられるようにするために、執行猶予の条件(「3年の懲役」以下)を「3年6ヶ月の懲役」(2回の減軽)、「7年の懲役」(1回の減軽)に緩和。
   (⇔批判:他の刑罰における執行猶予も拡大することになる。執行猶予にするかどうか裁判官の裁量を拡大する。)
  (b-4)減軽の回数を増加(「正面突破」の亜流)
    「無期懲役」でも執行猶予を付けられるようにするために、減軽の回数を計2回から増加させる。
   (⇔批判:他の刑罰における減軽も増加させることになる。減軽にするかどうか裁判官の裁量を拡大する。)
  (b-5)何となく「厳罰化賛成」
   (⇔批判:「かわいそう」かどうかを気分で決め、そのまま「厳罰化」をすすめますか? 各事件の感想に矛盾はありませんか?

 (2)「尊属殺重罰規定」否定派(最高裁違憲だということを理由に使える。ただし、一枚岩ではない。)
  (c)最高裁の多数意見
  (d)最高裁の意見(現在の通説)
  (e)何となく反対

 (3)よくわからない(ただし、一枚岩ではない。)

 (4)「直系卑属重罰規定」肯定派・「親族殺人重罰規定」肯定派(ただし、一枚岩ではない。)
  近親者による殺人の増加*2、「人情の自然に基づく心情の発露としての自然的・人間的情愛」の強調。
  (f)「直系卑属重罰規定」肯定派
    子供・孫の虐待は許せない(兄弟姉妹などは含まれない。)
  (g)「親族殺人重罰規定」肯定派
   (g-1)「兄弟姉妹」を含む。
   (g-2)「同居の親族」を含む。
  (h)何となく賛成

 (2)〜(4)は簡単に書きました…。



6.立法論の検討

 まず、(1)「尊属殺重罰規定」復活派についていうと、この立場にだって、取る選択肢はたくさんある。

 つまり、「尊属殺重罰規定」復活派といっても、内部で「異なる見解」が存在するわけです…(意見対立の存在、相手方を説得する必要性、どこかで妥協する必要性あり。)。




 また、「不憫な尊属殺」は普通殺人(刑法199条)の中で処理するとして、「身勝手な尊属殺」だけを別の規定にすることもできる、かもしれない。
 しかし、「不憫な」「身勝手な」は誰が決める?



 いずれにせよ、当該規定の、刑罰法規としての明確性・罪刑の均衡(平等かどうか)という憲法上の「ハードル」を超えていることをきちんと説明しなければならないだろう。
 最高裁判決がある以上(または、多くの人が今の状態を「受容」している以上)は、「何となく制定できる」、「何となく区別できる」、「普通の人なら区別できるはず」だけでは、きちんと考えている人は納得しないだろうと、私は思うけれど…。



 あと、「直系尊属」の範囲を、どのようにするのか?従来のままなのか?
 「自然血族」・「法定血族」の問題もあるか…。「範囲」についても、いろいろ選択肢があるわけですね。



 つぎに、(4)といっても、どういう法定刑にするのか、(1)と同じような選択肢があります。

 そして、(1)と(4)とは、「人情の自然に基づく心情の発露としての自然的・人間的情愛」による絆を「裏切る」ような反道徳的な行為だから厳罰化を求めるという点で共通する。その共通点を生かすかどうかで、共闘できるかが決まる。

 両者を認めることができる人が多ければ多いほど、「多数派工作」が楽になるということです。
 もちろん、(1)(4)両方認めることは、拒否反応を起こす人もいるだろうし、そうでない人もいるだろう、ということです…。



 現状は、(2)だから、(1)(4)の立場の人は、(2)(3)の立場の人に対して、自らの立場が妥当であることを説明し、賛同してもらえるよう努力しなければならない。

 (2)の立場の人は、今は安住できるかもしれない。しかし、(1)(3)(4)を説得する必要が出てくるかもしれない。



 ただ、有権者レベルで(2)が多数派であっても、あるセンセーショナルな事件の発生・報道などを契機に、政府・与党は、(2)の意思とは異なる法律を制定するかもしれない。

 そもそも、国会議員(政党)は、伝統的な考え方からすれば、投票区の意思とは離れて、全国民のために行動することができるのだから…(自由委任の原則、憲法43条参照。ただし、今日の通説は、「半代表」または「社会学的代表」)。*3

*1:犯罪統計を確認したわけではありません。

*2:同上

*3:「自由委任」については、http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9B%BD%E6%86%B2%E6%B3%95%E7%AC%AC43%E6%9D%A1