沈黙の自由

 あるきっかけで、いくつかの教科書を読み比べたにすぎません。m(_ _)m




 まずは、条文。憲法19条です。

 第19条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

 思想・良心の自由は、内心にとどまる限り絶対的に保障されるということを前提にしつつ、人の内心の表白を(少なくとも国家によって)強制されないという意味で、「沈黙の自由」が保障されていると、一般的には解釈されています。

 「したがって、国家権力が思想調査をしたり、江戸時代にキリスト教信者を摘発するために行われた踏み絵のような、精神的な意味を有する発言や行為を強制することは、それ自体憲法19条に違反することになる」そうです*1

 他の文献を読めばそれくらいのことはわかるだろうという批判は承知の上で言いますと、上の「精神的な意味を有する発言や行為を強制すること」と具体例があまり思いつきません。たしかに、「強制的な思想調査」「(それが原因で死罪になるような)踏み絵」が禁止されるのは分かります。

 果たして、それ以外に、どういう場合が「強制」なのかなあとか、いろいろと・・・。その調査を拒否したら、刑罰が科せられるのは「強制」だとして、それ以外の不利益な取扱いをうけるとか、逆に調査に答えたら何か利益があるものとか・・・。

 次の段階として、別の教科書、高橋和之立憲主義と日本国憲法』(有斐閣、2005年)148頁から引用すると、

 「強制的方法を用いない場合でも、国家が個人の思想・良心を詮索することは、原則として許されない。たとえば、公務員の採用面接に際して、思想・良心の推知にいたるような過去の活動歴・団体所属歴などを質問することは許されない(・・・・・・)。しかし、国家が行なう非強制的な『思想調査』の多くは、思想・良心の自由の問題となるよりは、むしろプライバシーの権利の問題となろう。」




 以下の話は、蛇足です。

 ところで、先にあげた、野中ほか教科書の旧版、『憲法〈1〉〔第三版〕』(有斐閣、2001年)291頁**(中村執筆)によると、国旗掲揚・国歌斉唱について

 「教師への強制は、国旗・国家の教育を行うよう求める職務命令としてなされるので、国旗・国家の教育が生徒に強制する内容でない限り、職務命令は合法的であるので、教師は教育を行う義務を免れないだろう。」

 と書かれていました。

 また、先ほどあげた高橋教科書の147頁によると、

 「君が代・日の丸が『国旗及び国家に関する法律』により国家・国旗と定められた現在では、それを『教えること』業務として命ずることは合法といわざるをえない。しかし、式典での斉唱・掲揚を強制することは、思想・良心の自由を侵害すると思われる。微妙な区別であるが、どこかで線引きすれば、このような引き方が妥当ではなかろうか。」

 だそうです。

 ちなみに、先ほどあげた、野中ほか教科書の最新版(第四版)305頁**では、記述に変更がありまして、

 「教師に対する義務の履行は、校長の職務命令によってなされるので、職務命令の内容が教師の思想・良心の自由を侵害するかどうかが問題になる。」

 という問題提起に変わっており、その後に、君が代ピアノ伴奏職務命令拒否戒告処分事件(東京地裁平成15年12月3日判決、判例時報1845号135頁)が紹介されている「だけ」です。

*1:直接の引用は、野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法〈1〉〔第四版〕』(有斐閣、2006年)301頁(中村執筆)からです。