1月27日の問題の解答・解説

 1月27日の日記で書いた問題の「一般的な」解答・解説をば。




問1:次の問いについて、○か×かで答えなさい。

 (1)憲法と法律を比べたとき、憲法のほうが上位法である。

   1つだけ理由を挙げるとすれば、日本国憲法98条1項に「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。 」と規定されているからです。

 (2)ある規定の存在を前提として、その規定の逆の場合には、逆の効果が生じるとする解釈手法を、類推解釈という。

  × 1月25日の日記に書きましたが、このような解釈手法は、反対解釈です。類推解釈は、類似の事例で、一方に規定があり、他方にない場合、他方にも同趣旨の規定があるとみなして解釈する技法のことです。

 (3)国家賠償法上の「公務員」には、国家公務員法地方公務員法で規定される「公務員」のみが含まれる。

  × 例えば、弁護士会の懲戒委員会の公務員法上の公務員ではないけれども、国家賠償法上の「公務員」に当たるとされています。

 (4)国家公務員法地方公務員法には、それぞれ、一般職と特別職の区別があるが、特別職とは、一般職に属する公務員以外の一切の職を包含する。

  × 「一般職とは、特別職に属する公務員以外の一切の職を包含する。」が正しい。国家公務員法2条2項は「一般職は、特別職に属する職以外の国家公務員の一切の職を包含する。」、地方公務員法2条2項も「一般職は、特別職に属する職以外の一切の職とする。」と規定している。

 (5)公務員の採用内定通知は、取消訴訟の対象にはならないとするのが判例である。

   最判昭和57年5月27日、昭和51年(行ツ)114事件、民集36巻5号777頁は、地方公務員の採用内定の通知は事実上の行為にすぎず、採用内定の取消しは、抗告訴訟の対象となる処分にあたらない、と判示しています*1

 (6)公務員が、その官職をみだりに奪われない権利を分限上の権利という。

   一般にそう言われているということで、次の解説へ。

 (7)国家公務員法75条1項によれば、その意に反した、降任・休職・免職は全面的に禁止されているので、転任も禁止されている。

  × 国家公務員法75条1項は、「職員は、法律又は人事院規則に定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、休職され、又は免職されることはない。」と規定する。つまり、法定事由によらなければ、その意に反した降任・休職・免職がなされないということです。降任というのは、いわゆる格下げ(降格)。転任(いわゆる転勤)は含まれていません。この趣旨はともかく、その官職をみだりに奪われないということを表していることはわかるでしょう。
 ちなみに、地方公務員法27条2項は、「職員は、この法律で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、若しくは免職されず、この法律又は条例で定める事由による場合でなければ、その意に反して、休職されず、又、条例で定める事由による場合でなければ、その意に反して降給されることがない。」と規定しています。

 (8)労働基本権には、いわゆる労働三権があり、団結権と団体交渉権と団体行動権があるとされる。

   条文だけ挙げておきます。意外と、条文に書かれていることを知らない方もいらっしゃると思いますので(^^;。憲法28条は、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。 」と規定しているので、団結権・団体交渉権・団体行動権が認められると(^^;。最高裁判決だと、最大判昭和41年10月26日、昭和39年(あ)296事件、刑集20巻8号901頁)

 (9)公務員の、法令に従う義務と上司の職務上の命令に従う義務の趣旨は異なる。

   塩野宏行政法〈3〉行政組織法[第二版]』(有斐閣、2001年)245頁を意訳すると、公務員の法令遵守義務は、法治主義に究極の根拠があり、行政機関を法律で縛るだけでは法治主義を達成できないから、行政機関の構成員である公務員に法令遵守義務を課すのだと。それに対して、上司の職務上の命令服従義務は、組織体の統一的効率的運営の確保にあって、法治主義とは直接関係ないそうです。

 (10)公務員には、国民と異なった義務が課されているが、その義務に違反した場合に、刑事罰を問われるのは、禁止される争議行為等のあおり行為等をした場合と、禁止されている政治活動を行った場合に限られる。 

  × 一般職の国家公務員の場合、禁止される争議行為等のあおり行為等をした場合(国家公務員法98条2項・110条1項17号)と禁止されている政治活動を行った場合(同法102条・110条1項19号)のほか、秘密を守る義務に違反した場合にも刑事罰が予定されている(同法100条・109条12号)。
 また、一般職の地方公務員の場合、禁止される争議行為等のあおり行為等をした場合(地方公務員法37条1項・61条4号)と秘密を守る義務に違反した場合(同法34条・60条)には刑事罰が予定されているが、政治活動については、刑事罰は予定されていない(60条以下)。




問2

 精神的自由権経済的自由権を比較した場合に、精神的自由権を制約する法律について、裁判所が違憲性の推定を働かせ、経済的自由権を制約する法律については合憲性を推定させて審査すべきであるという見解(二重の基準論)があります。その根拠、すなわち、なぜ、精神的自由権の制約については違憲性の推定を、経済的自由権の制約については合憲性の推定を働かせるのか、レジュメにある3つのキーワード(民主政の過程での是正の難易度・裁判所の審査能力・憲法22・29条における「公共の福祉」という文言の重複)を参考にしつつ、具体的に説明しなさい*2

 異論はあるものの、簡単にかなりラフに3つあげるとすれば、
 1.精神的自由権が不当に制約されると、自由な議論・公正な選挙などができずに、極端に言えば、悪政も批判できなくなり、その政権が維持されてしまう。だから、裁判所が積極的に介入して、厳格に審査する必要がある。これに対して、民主政の過程が正常に機能していれば、経済的自由権の不当な制約は、排除できるから、裁判所が積極的に介入せず、緩やかな審査をすれば足りるのではないか。
 2.裁判所の審査能力の問題。国会には国政調査権憲法62条)があるし、行政機関も行政調査などを通じて、社会経済政策の調査能力があるけれども、裁判所にはそのような調査能力がない。よって、経済的自由権を制約する場合には、国会・内閣の判断を尊重すべく、緩やかな審査基準でよいのではないか。
 3.上2つの実質的な理由のほかに、形式的な理由。人権は、一般的に「公共の福祉」による制約をうけるとして、「公共の福祉」という文言が、憲法12条・13条のほかに、22条1項・29条2項にある。(12条と)13条によって、人権一般に「公共の福祉」による規制が予定されているのに、22条1項と29条2項という経済的自由権の条文に、重ねて「公共の福祉」という文言があるということは、経済的自由権については、精神的自由権よりも強い規制をすることが許されるのではないのか。そうすると、裁判所は、緩やかな審査基準を用いてもいいのではないか。




問3:次の問いについて、○か×かで答えなさい(20点)。

 (1)判例は、刑法175条のわいせつ文書頒布罪は、最低限度の性道徳の維持のためのものであるから、合憲だとする。

   11月27日の日記でいいのかな?
 そこで取り上げたチャタレー事件(最大判昭和32年3月13日、昭和28年(あ)1713事件、刑集11巻3号997頁)が代表例ですね。

 (2)判例によれば、憲法21条2項前段の「検閲」に該当するものは、公共の福祉による制約も受けず、検閲は絶対的に禁止される。

   昨年11月13日の日記でも紹介しましたように、税関検査事件(最大判昭和59年12月12日、昭和57年(行ツ)156事件、民集38巻12号1038頁)
で、このようなことを言っておりましたね。

 (3)判例によれば、公務員についても憲法28条の労働基本権の保障が及ぶ。

   まだ日記では紹介していない有名な判例ですね。全農林警職法事件、最大判昭和48年4月25日、昭和43年(あ)2780事件、刑集27巻4号547頁から一部引用。

 「公務員は、私企業の労働者とは異なり、使用者との合意によつて賃金その他の労働条件が決定される立場にないとはいえ、動労者として、自己の労務を提供することにより生活の資を得ているものである点において一般の勤労者と異なるところはないから、憲法二八条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶものと解すべきである。」

 というわけで、労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶとするのが判例なわけです。その直後の「ただ」以下も重要だし、直前も含めた段落が、穴あけ試験的には特に重要だったり・・・。

 (4)判例は、公務員の政治的中立性を損なう恐れのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的でやむをえない限度にとどまる限り、合憲であるとする。

   昨年12月11日の日記で紹介しましたが、、猿払事件、最大判昭和49年11月6日、昭和44年(あ)1501号、刑集28巻9号383頁で、そのようなことを述べていましたね。

*1:昨年12月13日の日記で述べた、訴訟要件の三種の神器の1つ、処分性を、この段階では、否定したわけですね。この段階では、特段の事情があれば、国家賠償請求が認められるかもしれないけれども、採用内定の取消訴訟は認められないと・・・。一般企業の新卒採用であれば、最判昭和54年7月20日、昭和52年(オ)94事件、民集33巻5号582頁のように、おおむね、採用内定により就労の始期を大学卒業直後とする解約権留保付労働契約が成立したものとして、解雇権の濫用があるかどうかを争うことができるわけですね。

*2:しが研注:そのレジュメには、具体的な根拠について、きちんと書いていないそうです。丸写ししても、他人が読めば、例えば、なぜ、経済的自由権の制約について合憲性の推定を働かせるのか、意味がわからないレジュメだそうです。つまり、「民主政の過程での是正の難易度があるから、経済的自由権の制約について合憲性を推定する」って、日常の日本語として通じますか?