明確性の要請・その2

 1月23日の日記の続きです。

 徳島市公安条例事件(最大判昭和50年9月10日、昭和48年(あ)910事件、刑集29巻8号489頁)における明確性の要請の部分のみ、チョットだけ検討ということで(^^;。

 憲法の一般の教科書ですと、徳島市公安条例事件といえば、法律と条例の関係の問題と、明確性の要請の問題がメインなのでしょうか・・・(^^;。デモ規制と表現の自由との関係はあまりメインにならない・・・。いずれにせよ、明確性の要請の問題のみ取り上げますが・・・。


 しかし、念のため、事件の概要から。ええ、学部であれば、刑法ゼミなら勉強しても、憲法ゼミに所属していても知らないと思うので(^^;。ロースクールでは、事実の概要も含めて、下級審の判決文までフォローされるのでしょうが・・・(^^;。

事件の概要

 最高裁の判決文の「第一 本事件の経過」から抜粋*1

 「被告人は、・・・・・・、昭和43年12月10日県反戦青年委員会主催の『B52、松茂・和田島基地撤去、騒乱罪粉砕、安保推進内閣打倒』を表明する・・・・・・集団示威行進に青年、学生約300名と共に参加したが、右集団行進の先頭集団数十名が、同日午後6時35分ころから同6時39分ころまでの間、・・・・・・車道上においてだ行進を行い交通秩序の維持に反する行為をした際、自らもだ行進をしたり、先頭列外付近に位置して所携の笛を吹きあるいは両手を上げて、前後に振り、集団行進者にだ行進をさせるよう刺激を与え、もつて集団行進者が交通秩序の維持に反する行為をするようにせん動し、かつ、右集団示威行進に対し所轄警察署長の与えた道路使用許可には『だ行進をするなど交通秩序を乱すおそれがある行為をしないこと』の条件が付されていたにもかかわらず、これに違反したものである。」というのであり、このうち被告人が「自らもだ行進をした」点が道路交通法昭和35年法律第105号)77条3項、119条1項13号に該当し、被告人が「集団行進者にだ行進をさせるよう刺激を与え、もつて集団行進者が交通秩序*2の維持に反する行為をする*3ようにせん動した」点が「集団行進及び集団示威運動に関する条例」(昭和27年1月24日徳島市条例第3号、・・・・・・。)3条3号、5条に該当するとして、起訴されたものである*4

 ここで、注意が必要ですね。

この事案では、
 1.「自らもだ行進をした」点が、道路交通法違反として、
 2.「集団行進者にだ行進をさせるよう刺激を与え、もつて集団行進者がな通秩序の維持に反する行為をるようにせん動した」点が、いわゆる徳島市公安条例、すなわち、「集団行進及び集団示威運動に関する条例」違反として、
 起訴されたと。

 で、引用直後の部分にも書かれていますが、実は、1審・2審とも、道路交通法違反の部分については有罪としつつも、徳島市公安条例は、明確性に欠けるから憲法31条違反として、その部分については無罪にしていたわけですね。その点が最高裁で争われたわけです。

条文

 では、条文を読みましょう。現行法で引用。

道路交通法
(道路の使用の許可)
第七十七条  次の各号のいずれかに該当する者は、それぞれ当該各号に掲げる行為について当該行為に係る場所を管轄する警察署長(以下この節において「所轄警察署長」という。)の許可(当該行為に係る場所が同一の公安委員会の管理に属する二以上の警察署長の管轄にわたるときは、そのいずれかの所轄警察署長の許可。以下この節において同じ。)を受けなければならない。
 (一〜三 略)
  四  前各号に掲げるもののほか、道路において祭礼行事をし、又はロケーシヨンをする等一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会が、その土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたものをしようとする者
 2 前項の許可の申請があつた場合において、当該申請に係る行為が次の各号のいずれかに該当するときは、所轄警察署長は、許可をしなければならない。
  一 当該申請に係る行為が現に交通の妨害となるおそれがないと認められるとき。
  二 当該申請に係る行為が許可に付された条件に従つて行なわれることにより交通の妨害となるおそれがなくなると認められるとき。
  三 当該申請に係る行為が現に交通の妨害となるおそれはあるが公益上又は社会の慣習上やむを得ないものであると認められるとき。
 3 第一項の規定による許可をする場合において、必要があると認めるときは、所轄警察署長は、当該許可に係る行為が前項第一号に該当する場合を除き、当該許可に道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要な条件を付することができる。
 (4〜7 略)
第百十九条  次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
十三  第七十七条(道路の使用の許可)第三項の規定により警察署長が付し、又は同条第四項の規定により警察署長が変更し、若しくは付した条件に違反した者

徳島市公安条例】*5
(届出の事由)
第1条 道路その他公共の場所で,集団行進を行うとするとき,又場所の如何を問わず集団示威運動を行うとするときは,徳島市公安委員会*6(・・・・・・)に届出でなければならない。但し・・・
(遵守事項)
第3条 集団行進又は集団示威運動を行うとする者は,集団行進又は集団示威運動の秩序を保ち,公共の安寧を保持するため,次の事項を守らなければならない。
 (1) 官公署の事務の妨害とならないこと。
 (2) 刃物棍棒その他人の生命及び身体に危害を加えるに使用される様な器具を携帯しないこと。
 (3) 交通秩序を維持すること。
 (4) 夜間の静穏を害しないこと。
(罰則)
第5条 第1条若しくは第3条の規定又は第2条の規定による届出事項に違反して行われた集団行進又は集団示威運動の主催者,指導者又は煽動者はこれを1年以下の懲役若しくは禁錮又は5万円以下の罰金に処する。



結論

 で、(HPでは太字になっていたりする、法律と条例の関係の話はパスしまして)、明確性の話としては、1月23日の日記で示した基準を打ち出したあとで、

 このように見てくると、本条例三条三号の規定は、確かにその文言が抽象的であるとのそしりを免れないとはいえ、集団行進等における道路交通の秩序遵守についての基準を読みとることが可能であり、犯罪構成要件の内容をなすものとして明確性を欠き憲法三一条に違反するものとはいえない

 から、1審の結論を維持した原判決(2審の判決)を破棄し、最高裁自ら判断して(破棄自判して)、公安条例違反の部分についても、有罪としたわけです。



 最高裁HPにある判決文を読まずに、このエントリーを読み進めていくと、“あれ?「確かにその文言が抽象的であるとのそしりを免れないとはいえ」といっているから、「文言が抽象的だ」とか言っているのでは?”とか、“「このように見てくると・・・・・・明確性を書くとはいえない」といっているから、一般的な基準は1月23日の日記で紹介してもらったとして、一般的基準から結論を導き出すための「あてはめ」の部分があるのでは?”と思えば、大したもの。

 実際に判決文をご覧になるか、それとも、後日の私のエントリーをお待ちくださいませm(_ _)m

*1:申し訳ありませんが、爆撃機の紹介、両基地の所在の説明、デモ行進をした地名などは省略。

*2:最高裁HPでは、「な通秩序」になっています(^^;。

*3:HPでは、「行為をる」になっています(^^;。

*4:しが研注:1審・2審の判決事実を見ていくと、蛇行進の通過を待つため、乗用車、バス等合計約10台の車両が約1〜4分程度の間停車しなければならなかった事案です。

*5:徳島市の例規集「ExpressFinder / 例規 for Web」で検索。直リンできないようです><。正式名称は、“集団行進及び集団示威運動に関する条例”です。“公安条例”と入れてもヒットしませんから、“集団行進”などで検索されるか、「公安」の編をお探しください。

*6:しが研注:なお、現在、徳島市公安委員会というのは存在しません。自治体警察を廃止した現行警察法(昭和29年法律129号)の施行により、その事務は徳島県公安委員会によって引き継がれています(昭和29年6月19日政令151号警察法施行令附則19項)。