捜査機関の不作為と国家賠償請求・その1(?)

 今日も怠慢です。といいつつ、書くのに、結構時間かかるんですが・・・(^^;。私の巡回先とさせていただいているブログでは、それほど取り上げられていなかったニュースをとりあげます。




 他にも、配信記事ありますが、なんとなく、exciteニュースから共同通信の記事を引用。

捜査怠慢の賠償命令確定 神戸の院生暴行死事件  [ 01月19日 17時17分 ]

 2002年に神戸市で大学院生浦中邦彰さん=当時(27)=が暴力団員らに拉致、暴行され死亡した事件をめぐり、母親が兵庫県警の捜査怠慢を主張し県に約1億3700万円の賠償を求めた訴訟で、最高裁第1小法廷(横尾和子裁判長)は19日、県の上告を棄却する決定をした。捜査の怠慢を認め9700万円の支払いを命じた2審大阪高裁判決が確定した。
 事件は2002年3月、神戸市西区で発生。2審判決によると神戸商船大(現神戸大)院生だった浦中さんが、駐車位置をめぐり暴力団組長(当時)に言い掛かりを付けられ、組員らに車で拉致された上、暴行を受けた。その後川べりに放置され死亡した。
 1審神戸地裁判決と2審判決は、住民の通報で現場に駆けつけた警察官が、拉致の可能性を認識できたのにそのまま引き揚げたと指摘。こうした捜査怠慢が浦中さんの死につながったと認定し、県の賠償責任を認めた。

 私の巡回先で取り上げていたのは、チョット探した範囲では、

 くらいでしょうか・・・(^^;。

 まあ、最近色々なニュースがあるような気がしますので・・・。

 この最高裁判決は、最高裁のHPには出ていません。だから、この判決について、コメントすることはできません。



 しかし、一般論として、私人と私人の間の問題だから、被害者が加害者に対して、不法行為による損害賠償請求(民法709条*1)すればいいものを、なぜ、県に対して損害賠償請求(国家賠償請求、国家賠償法1条1項)できるか、疑問に思われません?

 ということで、行政法学チックに、簡単に説明を。

 あれ?これを説明しだすと、長大なエントリーになりそうな予感。あくまで、簡単に・・・(^^;。



 最高法規である憲法17条と、その下位法規である(はずの)国家賠償法1条1項のみ引用。

憲法17条
 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。

国家賠償法1条1項
 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

 憲法17条の法的性質や国家賠償法1条との文言の違いについては、パス。国家賠償法1条1項の要件は、次のとおり。

 1.「国または公共団体」であること*2
 2.「公権力の行使」であること
 3.その行使に当たる「公務員」であること
 4.公務員が、割り当てられた「職務を行う」場合であること
 5.公務員に「故意又は過失」(わざと又はうっかり)があること
 6.公務員の行為が「違法」であること
 7.他人に「損害」があること
 8.公務員の加害行為と被害者の損害に「因果関係がある」こと
 9.これらの要件を満たすときに、「雇い主」である「国又は公共団体」が賠償責任を負う。

 まあ、省略してはいますが、要件はこんな感じでしょうか・・・(^^;。

 典型例は、県警の警察官が職務中に、ある人を殴ったりした場合でしょうか。この場合、雇い主である県が損害賠償責任を負うわけです。



 今回の事例にひきつけて言えば、問題は、警察官が、ある人に対して何もしていない場合(不作為の場合)で、しかも、第三者に損害を与えるような場合です。つまり、ある人の身柄を拘束しなかったがために、第三者に被害を及ぼすような場合。加害者を引き止めなかったからといって、その責任は加害者のみが負ってもよいようにも思えますね。

 因果関係はさておき、行政法的に特に問題となるのは、警察官が、ある行為をするかしないかを任されているような場合で、すべきにもかかわらずしなかったからと、警察官の行為が違法であるから、県が責任を負わないといけないのかという点でしょうか・・・(^^;(作為義務と裁量の関係)*3
 一般論としても非常に難しいところがありますし、そのリーディングケースとなったような複数の事案についても、事実認定というか、個別事案を当たって、その基準となる法令などの検討もしないといけないような気がするので、今日はこのへんで・・・(^^;。しばらくお時間をいただければ幸いです。

 いや〜、どなたかしっかり書かれていれば、不勉強な私が書かなくてもいいのですが・・・(^^;。最近、どうも、ネット上のつながりで刑事法の領域に足を突っ込み始めている予感が・・・(^^;。

*1:民法709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 」と規定しています。

*2:ただし、弁護士に対して懲戒処分を行う場合、弁護士会も含んだりする。

*3:なお、塩野宏行政法〈2〉行政救済法[第四版]』(有斐閣、2005年1刷)282頁注3の最後の論文名は、「危機」ではなく、「危険」です。桑原勇進「いわゆる行政危険防止責任について」東海法学18号(1997年)