成田新法事件・その2(完)

 14日の日記の続きです。成田新法事件、最大判平成4年7月1日の若干の検討を(^^;。

 まあ、木佐茂男「工作物使用禁止命令と事前手続」塩野宏小早川光郎・宇賀克也編『行政判例百選 (2) (別冊ジュリスト (No.151))[第四版]』(有斐閣、1999年)260−261頁とそこで引用されている文献*1を読めば、私のこのエントリーを読む必要は、おそらく、まったくありません。



 念のために言っておきますが、空港を作ること自体反対だと言うつもりはありませんし、(結果的には一方の肩入れになるのかもしれませんが)大多数の利便性を考えれば最高裁判所の判決について当然賛成すべきなのになぜ反対するのかとかいう批判があるかもしれませんが、反対派がどういう人で構成されているかどうかも脇においておくという意味においても、ここで書く話というのは、そういう話(次元)とは違います。

 つまり、例えば、法律であるとか、最高裁判所の結論が、仮に「正しく」ても、その理由付けが甘ければ、「甘い」と批判すべきだということをするのが、行政訴訟裁判員制度(マテ)ができるまでに、ちゃんと考えましょうということです。




 成田新法事件において、問題になった法律は、事件の名前のとおり、成田新法*2です。

 この法律の説明やこの判決の検討をしだすと、他の法律、他の判例との比較、憲法21条の話などいろいろと説明しないといけないので、簡単に。

 まず、昨日引用した判決文の比較衡量の基準の、その直後のあてはめの部分を引用します。

 本法三条一項に基づく工作物使用禁止命令により制限される権利利益の内容、性質は、前記のとおり当該工作物の三態様における使用であり、右命令により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等は、前記のとおり、新空港の設置、管理等の安全という国家的、社会経済的、公益的、人道的見地からその確保が極めて強く要請されているものであって、高度かつ緊急の必要性を有するものであることなどを総合較量すれば、右命令をするに当たり、その相手方に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定がなくても、本法三条一項が憲法三一条の法意に反するものということはできない。

 つまり、「工作物使用禁止命令により制限される権利利益」と「命令に達成しようとする公益、内容、緊急性等」*3を、総合衡量という天秤にかけたときには、処分の相手方に事前に、告知・弁解・防御の機会(告知・聴聞)を与える旨の規定がなくても、憲法31条違反にはならないとしたわけです。

 そういうふうに、暗記物の試験対策としては、行政法で勉強する代表的な判例とともに、ここまで勉強すれば足りるのでしょう・・・(^^;。



 で、例のごとく芦部信喜高橋和之補訂)『憲法 第三版[第三版]』(岩波書店、2002年)からの引用。まず、224頁。

 成田新法事件(第九章四1(二)(1)参照)で最高裁は、・・・・・・そういう限定つきで31条の行政手続への適用ないし準用を真正面から認めた。
 実際には、行政手続法(平成5年法88号)の成立によって、告知・聴聞を受ける機会が保障されることになった。

 と書かれているにすぎません。(判決文の一般的基準の紹介をした上で)「そういう限定つき」と書かれていることと、「参照」というところから何を読み取るかでしょうか・・・(^^;。ちなみに、「第九章四1(二)(1)参照」の部分、すなわち、集会の自由の限界の部分のところで、

 単純な比較衡量の基準を用いて、「公共の福祉による必要かつ合理的なものである」とした判例もある(・・・)。これは、・・・(基準が緩やかすぎるとの批判もある。)

 という部分から、何となく想像するか、この教科書の別のところ(や別の文献?)での芦部説の考え方から推測しないといけないのでしょうか・・・(^^;。

 ただ、行政手続法が制定されて万々歳のようにも読めなくもないので、行政手続法の適用除外になるような事案だと・・・(^^;。



 ということで、木佐茂男「工作物使用禁止命令と事前手続」塩野宏小早川光郎・宇賀克也編『行政判例百選 (2) (別冊ジュリスト (No.151))[第四版]』(有斐閣、1999年)に戻るわけですが、「解説」は「受験生は読まない(読むな。)」ともいわれますが、その部分からチョット引用。恣意的に部分的にしか引用しませんので、悪しからず。261頁。

1.「1991年に事件が大法廷に回付されて以降の大法廷口頭弁論及び数百ページの上告理由補充書をまったく考慮していない(・・・*4)ので、原告により主張された立法事実そのものの誤認(団結小屋が過激は集団の出撃の拠点となっていたとの認識がそもそも警察当局も認める誤りであるとの主張)、本件命令の適用違憲ないし運用違憲の可能性等については判断されていない(・・・)。」

2.「英、米、仏、オーストリアの教科書や注釈書を数冊ずつ見た限りにおいて、『公共性』は、本判決のように抽象的概括的には承認されていない。仮に事前手続を欠く場合でも裁判所の令状を介在させたり、予備的決定にとどまるなどの対応がされる。・・・。なお、本件命令に係る工作物は警察に保管されていたのであるから命令を発する緊急性はそもそもなかったようである。以上のようにみると、本件命令は事前手続を必要とする最も典型的な事例に当たる可能性が強い。事前手続を不要とする論拠について、被告の理由付けを精査する必要があろう。」



 事実認定の胡散臭さについて、最高裁の有名な憲法判例といえば・・・(´・ω・`)ナンデシタッケ? ダッテサンポアルイタラ・・・

*1:参考文献にあがっている、千葉勝美・ジュリスト1009号33頁については、ジュリスト編集室編『最高裁時の判例―平成元年~平成14年 (1) (ジュリスト増刊)』(有斐閣、2003年)148頁以下に所収。

*2:正確には、これは通称であって、いつも使っている法令データ提供システムで“成田新法”と入力してもヒットしません。昭和53年3月、成田空港開港予定日直前に過激派が管制塔に侵入して、空港開港が延期されたことを契機として、議員提案によって制定され、5月に公布即日された新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(現在は、成田国際空港の安全に関する緊急措置法)。

*3:「新空港の設置、管理等の安全という国家的、社会経済的、公益的、人道的見地からその確保が極めて強く要請されているものであって、高度かつ緊急の必要性を有するものであることなど」

*4:この点について、参照指示が出ていまして、その事情については、北野弘久=一瀬敬一郎『成田治安法・いま憲法が危ない―三里塚農民の抵抗と最高裁大法廷判決』(社会評論社、1992年)10頁・414頁。なお、『成田治安立法』ではない。