「法律の留保」・その7

 昨日の日記の続きです。



  • 自動車一斉検問の場合・その2(完)

 もう1度条文を挙げます。

警察法
(警察の責務)
第二条  警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
 2  警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。

警察官職務執行法
(この法律の目的)
第一条  この法律は、警察官が警察法(昭和二十九年法律第百六十二号)に規定する個人の生命、身体及び財産の保護、犯罪の予防、公安の維持並びに他の法令の執行等の職権職務を忠実に遂行するために、必要な手段を定めることを目的とする。
 2  この法律に規定する手段は、前項の目的のため必要な最小の限度において用いるべきものであつて、いやしくもその濫用にわたるようなことがあつてはならない。
(質問)
第二条  警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。
 2  その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。
 3  前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。
 4 (略)

 昨日は、外務省設置法は、「組織規範であって、根拠規範にはならない。」ということをいいましたが、警察法はどうでしょう?

 外務省設置法という法律があるなら、警察庁設置法という法律があるのではと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、警察庁は、上位組織である国家公安委員会も含めて、警察法で規定されています*1

 旅券法のような個別法が必要だとすると、警察官職務執行法*2のような法律で書いている必要がありますが、「○○の場合には、自動車の検問をすることができる。」というような規定はありません。



 さて、最高裁*3はどういっているでしょうか?

 本当は、所持品検査の判例*4も説明したほうがいいのですが、自動車の一斉検問の事案として、有名な判例としては、最判昭和55年9月22日、昭和53年(あ)1717号、刑集34巻5号272頁があります。

 本題なので部分的に引用。

 警察法二条一項が「交通の取締」を警察の責務として定めていることに照らすと、交通の安全及び交通秩序の維持などに必要な警察の諸活動は、強制力を伴わない任意手段による限り、一般的に許容されるべきものであるが、それが国民の権利、自由の干渉にわたるおそれのある事項にかかわる場合には、任意手段によるからといつて無制限に許されるべきものでないことも同条二項及び警察官職務執行法一条などの趣旨にかんがみ明らかである。しかしながら、自動車の運転者は、公道において自動車を利用することを許されていることに伴う当然の負担として、合理的に必要な限度で行われる交通の取締に協力すべきものであること、その他現時における交通違反、交通事故の状況などをも考慮すると、警察官が、交通取締の一環として交通違反の多発する地域等の適当な場所において、交通違反の予防、検挙のための自動車検問を実施し、同所を通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて、運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは、それが相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法なものと解すべきである。

 簡単にまとめると、
1.警察法2条1項から、強制力をともなわない任意手段であれば、交通の安全・交通秩序の維持などに必要な諸活動は許容される。

2.警察法2条2項・警察官職務執行法1条などから、任意手段といっても無制限に許されるものではない。

3.(チョット省略しますが)結局、外形上の不審な点の有無にかかわりなく、単時分の停止で、必要な事項の質問などについて、相手方の任意の協力、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法・態様、で行われる限り、適法。



 長エントリーになりながら、結論をなるべく避けつつ書きますが、この判旨の部分をどう読むのかに争いがあるし、正当化するにも、批判するにも色々あるわけです(^^;。法律の根拠があるといえるのかどうかに限ったとしても。

 つまり、警察法をもって法律の根拠があるといったり、それは組織規範であるから、根拠とはなりえないといったり、権力の行使をしない場合だから、別に法律の根拠が必要ないといったり、両法をあわせても、この程度の条文では規律密度が低すぎるとか・・・(^^;。

 もし、法律の根拠がないと考えるとすると、毎年のように改正される道路交通法とかで検問ができるような法律を作らないと、事件によっては、違憲・違法だといえなくもありません*5

 さて、もちろん、最高裁判例があるわけですし、実際には、自動車の一斉検問というのが行われているわけです。

 だから、検問で、警察がバリケードでふさいだり、警察官が行く手を阻んでいるのに、逃げようとして、色々な罪を問われないようにしてくださいね(^_-)-☆ 。



 次回、本質性理論に対する若干の疑問点を書いて、あとは、委任立法の限界とか明確性の要件の話は、別エントリーにしましょうか・・・(^^;*6

*1:国家公安委員会が第2章(4条〜14条)、警察庁が第3章(15条〜35条)。

*2:附則を除くと、全6か条の短い条文です。

*3:今回も下級審判決はパス。

*4:例えば、最判昭和53年6月20日、昭和52年(あ)1435号事件、刑集32巻4号670頁最判昭和53年9月7日、昭和51年(あ)865号事件、刑集32巻6号1672頁など。

*5:この事件について、1つ文献を挙げるとしたら、曽和俊文「118 自動車の一斉検問」塩野宏小早川光郎・宇賀克也編『行政判例百選 (1) (別冊ジュリスト (No.150))[第四版]』(有斐閣、1999年)でよろしいでしょうか・・・。本質性理論というキーワードは出てきませんが・・・(^^;。

*6:予定は未定(´・ω・`)。