取消訴訟入門?
実は、12月7日の日記を書く時点では、小田急高架化訴訟の原告適格の話を書こうかと思っていました。
しかし、12月10日の日記を書く時点で、いくつかのブログを拝見したところ、むつかしい話はやめておいて*1、もっと基本的な話をしたほうがいいと思いました。
そこで、取消訴訟に限定して、大まかな流れを紹介。
もし、ある人が、行政の活動を取り消して元の状態に戻してもらいたいと思って、裁判所に訴える場合、裁判所は、次のことを判断します。すなわち、
1.訴訟要件を充たしているかどうか(要件審理を行う)
2.その行為を取り消すべきかどうか(本案審理を行う)
訴訟要件
塩野宏教授は、「訴訟要件とは実質的な審判、つまり本案について審理判断をするための要件で、平たく言えば、国家の作った訴訟制度の利用条件である。これが欠けているときは、裁判所は請求について本案判決をすることができず、却下判決をすることになる。」と定義されています*2。
この訴訟要件には、いくつかありますが、代表的な3つを、しかも大まかに挙げるとすれば*3、
(1)取消訴訟の対象となる行為(処分性、行政事件訴訟法3条*4)かどうか?
(2)そもそも取消訴訟を提起することのできる人(原告適格、同法9条*5)かどうか?
(3)提起できる人だとしても、訴訟を続けさせてもいいのかどうか?(狭義の訴えの利益、同法9条括弧書き*6)
があげられるでしょう。
そして、裁判所の判決には、この3つのいずれかがないとして、却下判決(門前払い)をしている例がたくさんあります。従来、この3つは、「三種の神器」*7と呼ばれてきました。
終局判決の種類
さて、訴訟要件を充たしたとしても、原告勝訴であるとか、その行為が取り消されるわけではありません。あくまで、訴訟の土俵に上がっただけ。
その行為が違法であるかどうかは、その後の本案審理の段階で、裁判所が判断するわけです。
ところが、仮に、原告・被告がずーっと争っていて、その行為が違法だと裁判所が判断した場合であったとしても、必ずしも、その行為が裁判所によって取り消されるわけではありません。
というのは、事情判決(行政事件訴訟法31条)という制度があるからです。すなわち、「処分等を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができ」、結果的には、その行為を取り消してもらえず、原告敗訴になるわけです。
ということで、判決によって、訴訟の終了*8の類型としては、次のようにまとめることができます。
1.却下判決(訴訟要件を充たさない)
2.請求認容判決(訴訟要件を充たし、かつ本案審理で請求が認められる。)*9
3.請求棄却判決(訴訟要件を充たすが、本案審理で請求が認められない。)
(1)通常の請求棄却判決
(2)事情判決(処分等は違法であるが、請求は棄却する。)
執行停止制度
さて、訴訟要件と本案審理後の終局判決の説明をしましたが、もう1つだけ、基本的な話を。
執行停止制度とは、取消訴訟が係属している場合であっても、処分等の効果には影響しないという、執行不停止(行政事件訴訟法25条1項)を前提として、例外的に、裁判所が執行停止できる制度(同条2項)があり、さらに、その裁判所の決定を内閣総理大臣が覆すことができる、内閣総理大臣の異議制度(同法27条)があります。
今日のまとめ
以上、簡単に、制度の紹介をしましたが、これをまとめると、
- ある行政活動を取り消してもらおうとしても、訴訟要件を充たしていないとして、却下(門前払い)される場合がある。
- 裁判所に、その請求自体を判断してもらえるとしても、取り消してもらえる場合(請求認容)と、取り消してもらえない場合(請求棄却)がある。
- 訴訟を提起したとしても、処分等の効果には影響しないことが原則(執行不停止の原則)であるので、処分等の手続が進行する可能性が高い。
- 例えば、最高裁まで10数年間争っている場合などによって、訴訟している間に、処分等の手続が進行してしまって、処分の効果が完結してしまうと、
(a)処分等を取り消す法律上の利益がないとして、訴訟要件である「狭義の訴えの利益」がないとして、却下されたり、
(b)取り消すことが「公共の利益に適合しない」として、事情判決により、請求が棄却される
ことになるわけです。
このような傾向を一部是正するために、今年4月施行の改正行政事件訴訟法で新設したといわれていますが、その話は・・・。(´・ω・`)
*1:書く能力がないというのは、ナイショだけど、当然の助動詞だが・・・。(´・ω・`)
*2:塩野宏『行政法〈2〉行政救済法[第四版]』(有斐閣、2005年)91頁。
*3:このほかに、被告適格、裁判管轄、出訴期間などがある。
*4:つまり、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」
*5:つまり、「取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」。
*6:条文を若干要約すると、「処分等の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお、処分等の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者」に該当するかどうか。
*7:冷蔵庫、DVDとかではありません。もちろん、草薙の剣などでもありません。しかし、この取消訴訟における「三種の神器」って、誰が最初に言い出したのでしょうね。
*8:もちろん、当該裁判所の話なので、上訴の問題は残っている。
*9:請求の内容・裁判所の判断によっては、一部認容、一部棄却という場合もある。