法律の文言でも・その4

 12月2日の日記の続編。

 このシリーズ、別に体系性があるわけではなく、気まぐれに思いついたことをしたためているだけです。

 今日は、公務員の政治活動を制限する法律の合憲性について、条文と判例の「差」というものを、実感していただこうかと。今回は、いつもとは逆に(?)、条文を読むと、意外と引っかかりやすいという話です。



憲法・初心者編(?)

 まず、公務員の政治活動の制限する法律の合憲性が問題となった事例として、真っ先に思いつくのは、猿払事件*1でしょうか。

 ちょっと欲を言えば、

 1.この判例から、「すべての公務員の政治活動を、一律禁止することは合憲である。」と覚えておられる方がいらっしゃるかもしれません。まあ、それでも、試験的にはいい場合もあります。
 2.さらに、この事案が、「北海道の猿払村の郵便局員が、衆議院議員の選挙用ポスターを公営掲示板に掲示したり、他に配布したところ、国家公務員に反するとして起訴された事件」*2であること。
 3.「最高裁は、①行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼の確保という規制目的は正当であり、②その目的のために政治的行為を禁止することは目的との間に合理的関連性があり、③禁止によって得られる利益と失われる利益との均衡が取れているとして、合憲である、と判示した」*3

 この程度知っていれば、結構いい線いくでしょうか。3.③の比較衡量の仕方は知らなくても。

  • 寺西判事補事件

 この事件*4についても、「裁判官の政治活動を制限することは、合憲である。」くらいに知っていて問題ない場合もあるでしょう。

 こちらについても、ちょっと欲を言えば、

 1.寺西判事補が、戒告処分を争った事案であること。
 2.「最高裁は、積極的政治運動とは『組織的、計画的または継続的な政治上の活動を能動的に行う行為で、裁判官の独立と中立・公正を害するおそれがあるもの』を言うとし、その禁止は『合理的で必要やむをえない限度にとどまる』から違憲ではないと解し、本件発言は個人の意見の表明の域を超え現に避けるべきもので、積極的政治運動に当たる、と判断した」*5こと。
 3.もっというと、判例は、「裁判官に対する政治運動禁止の要請は、一般職の国家公務員に対する政治的行為禁止の要請より強いものというべきである。」と述べている点も知っておいて貰いましょうか*6



条文の比較

 ちょっと結論先取りで書いてしまった部分がありますが、条文を引用。

(政治的行為の制限)
第百二条  職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。

   第四章 罰則
百十条  左の各号の一に該当する者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
十九  第百二条第一項に規定する政治的行為の制限に違反した者

 102条1項の「人事院規則」である、人事院規則14-7の引用は省略。102条1項の読み方も省略(笑)*9

 いずれにしても、大まかに言えば(笑)、「人事院規則で定める政治的行為」をすると、刑罰が科せられる可能性があるということで、スルー。(´・ω・`)

  • 裁判所法52条1号

第五十二条 (政治運動等の禁止)  裁判官は、在任中、左の行為をすることができない。
 一  国会若しくは地方公共団体の議会の議員となり、又は積極的に政治運動をすること。

 裁判官は、在任中、「積極的に政治運動」をしてはいけないわけですね。

 国家公務員法と裁判所法の違い、なんとなく分かりますか?

 懲戒事由の問題*10はさておき、一般職国家公務員の「政治的行為の禁止」と裁判官の「積極的政治運動の禁止」を比較すると、「裁判官の独立」という言葉を知っていたら、裁判官のほうが、政治活動できそうな気がしませんか?

 ところが、判例は、「裁判官に対する政治運動禁止の要請は、一般職の国家公務員に対する政治的行為禁止の要請より強いものというべきである」といっているわけです。

 なまじっか条文を知っているほうが、教科書の記述だけ知っているよりも、間違う可能性が大きいわけですね〜(^_-)-☆ 。

 その理由が気になってきませんか?



 ちなみに、芦部教科書では、省略されていますが*11、一般職の地方公務員の場合

(政治的行為の制限)
第三十六条
  2  職員は、特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、あるいは公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、次に掲げる政治的行為をしてはならない。ただし、当該職員の属する地方公共団体の区域(・・・しが研略・・・)外において、第一号から第三号まで及び第五号に掲げる政治的行為をすることができる。

 大雑把に言えば、

 1.「目的」が一応限定され
 2.政治的行為の禁止の事由が、省略した各号の列挙された事由に限定され
 3.禁止されているものであっても、地方公共団体の区域外では、することができる政治的行為があり
 4.禁止されている政治的行為をしても、刑事罰はない(地方公務員法の第5章 罰則参照)。

 ということになりますね。

 さらに、独立行政法人などになると・・・。(´・ω・`)

*1:最大判昭和49年11月6日、昭和44年(あ)1501号、刑集28巻9号383頁。なお、最高裁のHPを検索すると、他にも2つの大法廷判決がある。

*2:芦部信喜高橋和之補訂)『憲法 第三版[第三版]』(岩波書店、2002年)256頁から引用。なお、余談になるが、私は、1刷を持っていますが、目次で、猿払事件を探しても、有名な論点である「委任立法」の箇所(272頁)が、記載されていません。

*3:前掲書256頁から引用。

*4:最大決平成10年12月1日、平成10年(分ク)1事件、民集52巻9号1761頁。

*5:前掲書256-257頁から引用。

*6:現に、公務員採用試験の過去問に・・・。

*7:意外と、2項3項知らない方とかいらっしゃったりして・・・。

*8:意外と、法定刑を知らない方がいらっしゃったりして・・・。

*9:この条文読めますか? 「あるいは」の前が、どこに係っているのか。(´・ω・`)

*10:例えば、寺西判事補事件の園部反対意見参照

*11:前掲書103頁参照