憲法判例の読み方(入門編)・その3
前回の日記では、判決文の目次を作成してみました。
PDF文書として17ページにも及ぶ小難しい文章であっても、目次作成をすることによって、その長文の「構造」を概観でき、またその長文の理解につながるだろうし、さらに17ページも読まなくても最初の5ページを読めばOK牧場ということがわかる…(ry*1。
なお、最初に断っておきますが、ほとんどまとめていません。したがって、以下のものを読まずに、直接、判決文を読んだほうが早いと思います(笑)。
しかし、あえて、長々と書こうとしているかというと、「判決要旨」*2が判決文のどの部分を要約したものなのかということを確認する作業を通じて、「日本語を日本語として素直に(=自分の感情を入れずに)読んで欲しい」と思ったからです。わかりやすく言えば、「センター試験の現代文を受けるつもりで」。
そして、以下のものを読まなくても、自分自身で法廷判決を素直に読んだ上で、「判決要旨」に限らず判例評釈や教科書が、本判決を紹介しているときに、どこを「要約」「省略」しているのかとか、
本判決の補足意見・反対意見がどの点について何を言っているのかとか、補足意見・反対意見を含め本判決について、誰がどの点について何を言っているのかを確認して欲しいなあと思うわけです(キリッ。
3.判決文(法廷意見)のまとめ
というわけで、“最3小判平成19年02月27日 民集第61巻1号291頁”の判決文の法廷意見を、まとめてみようかと…。
(1)「事案」 (PDF1ページ、理由1)
もう、ここは、まとめなくてもいいよね。と、いきなり、飛ばす(笑)。
(2)「原審の適法に確定した事実関係等の概要」 (PDF1〜2ページ、理由2)
ここは、文章ではなく、表にしてみるみる。
なお、今回なぜか多用している『判例学習のAtoZ』によると、「最初にすべきことは、事実関係の把握・整理である。最初から判旨を読んではいけない」そうです…*3。
○平成7年3月以降
A小学校:卒業式・入学式で、「君が代」斉唱(音楽専科の教諭によるピアノ伴奏つき)
○平成11年4月1日〜
上告人、A小学校に勤務
○平成11年4月5日(入学式前日)
校長の職務命令・上告人の拒否
○平成11年4月6日(入学式当日)
(2度目の)校長の職務命令・上告人の拒否
本件入学式の挙行(上告人はピアノに座ったまま。5〜10秒待った後、校長が、予め用意していた録音テープでの伴奏を指示)
○平成11年6月11日
被上告人が上告人に対して戒告処分(地方公務員法32条・33条違反による懲戒処分*4)
で、いくつかコメントを。
まず、「判決要旨」だけを読んだり、判決文・判例評釈等を「読み飛ばし」ていると、本件において、職務命令が2回も出ていることに気がつかなかったりするわけだ…。PDF2ページの(4)のところで「(以下,校長の上記(3)及び(4)の命令を「本件職務命令」という。)」となっているけれど、その後は、「本件職務命令」とだけ書かれているから。
次に、「原審の適法に確定した事実関係等の概要」というのは、まさに「概要」にすぎないということ。つまり、法廷意見の「3」「4」で「展開される法的評価・あてはめの前提として過不足のないように、法的な視点で整理されたもの」*5であって、法廷意見からすれば「過不足のないように」摘示したかもしれない。しかし、他の裁判官はそうではないかもしれないし、また、われわれが論評する時には、別の事実を持ち出すこともあるかもしれない…。ここは、問題意識の指摘だけにとどめておく。
(3)法廷意見の判断 (PDF2〜5ページ、理由3など)
うーん、ここは、便宜上、まず「判決要旨」の一部を、再度引用。
(1)上記職務命令は「君が代」が過去の我が国において果たした役割に係わる同教諭の歴史観ないし世界観自体を直ちに否定するものとは認められないこと,
(2)入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏をする行為は,音楽専科の教諭等にとって通常想定され期待されるものであり,当該教諭等が特定の思想を有するということを外部に表明する行為であると評価することは困難であって,前記職務命令は前記教諭に対し特定の思想を持つことを強制したりこれを禁止したりするものではないこと,
(3)前記教諭は地方公務員として法令等や上司の職務上の命令に従わなければならない立場にあり,前記職務命令は,小学校教育の目標や入学式等の意義,在り方を定めた関係諸規定の趣旨にかなうものであるなど,その目的及び内容が不合理であるとはいえないこと
など判示の事情の下では,前記職務命令は,前記教諭の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するということはできない。
前々回まとめたように、「(1)(2)(3)などの事情の下では」「前記職務命令は…憲法19条違反ではない」という【構造】になっているわけです。
でね、判決文をみると、ご親切にも、下線を引いている箇所がある*6。PDF5ページから引用。
(4) 以上の諸点にかんがみると,本件職務命令は,上告人の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に反するとはいえないと解するのが相当である。
ここから、「本件職務命令は…憲法19条に反しない」と読み取ることができるので、その理由を、引用した文章の前の箇所、すなわち、判決文の(1)〜(3)で見ていこうと…。
で、ほとんどそのまんまの引用になってしまうけれど、「判決要旨」もコピペして、その項目ごと、紹介…。長くなってしまうのだけれど…。
まず、(1)から。
○判決要旨(1):
上記職務命令は「君が代」が過去の我が国において果たした役割に係わる同教諭の歴史観ないし世界観自体を直ちに否定するものとは認められないこと,
○判決文3の(1):
上告人は,「君が代」が過去の日本のアジア侵略と結び付いており,これを公然と歌ったり,伴奏することはできない,また,子どもに「君が代」がアジア侵略で果たしてきた役割等の正確な歴史的事実を教えず,子どもの思想及び良心の自由を実質的に保障する措置を執らないまま「君が代」を歌わせるという人権侵害に加担することはできないなどの思想及び良心を有すると主張するところ,このような考えは,「君が代」が過去の我が国において果たした役割に係わる上告人自身の歴史観ないし世界観及びこれに由来する社会生活上の信念等ということができる。しかしながら,学校の儀式的行事において「君が代」のピアノ伴奏をすべきでないとして本件入学式の国歌斉唱の際のピアノ伴奏を拒否することは,上告人にとっては,上記の歴史観ないし世界観に基づく一つの選択ではあろうが,一般的には,これと不可分に結び付くものということはできず,上告人に対して本件入学式の国歌斉唱の際にピアノ伴奏を求めることを内容とする本件職務命令が,直ちに上告人の有する上記の歴史観ないし世界観それ自体を否定するものと認めることはできないというべきである。
えっ、判決文のコピペ><;。ラフに判決文をまとめると、
(a)上告人の主張する考えは、「君が代」が過去の我が国において果たした役割に係わる上告人自身の歴史観・世界観、これに由来する社会生活上の信念ということができる、
(b)本件入学式の国家斉唱の際にピアノ伴奏を拒否することは、上告人の歴史観・世界観に基づく1つの選択肢ではあろうが、
(c)しかし、一般的には、「これ」ってどれよ?(´・ω・`)
一般的には、入学式において国家斉唱の際にピアノの伴奏を拒否することは、(一般人の?)歴史観・世界観と不可分に結びつかないので、
(d)本件職務命令は、直ちに上告人の有する歴史観・世界観それ自体を否定するものではない。
以上、(c)によけいな表現がありますが、(a)と(d)の太字の部分をつなげると、「判決要旨(1)」になるのかなと…。ただ、理由づけは、とくに(b)(c)をちゃんと読まないとイケませんよねと。つまり、「判決要旨だけ読む」とかマズイですよねと…(^^;。
では、(2)にいきませう。
○判決要旨(2):
入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏をする行為は,音楽専科の教諭等にとって通常想定され期待されるものであり,当該教諭等が特定の思想を有するということを外部に表明する行為であると評価することは困難であって,前記職務命令は前記教諭に対し特定の思想を持つことを強制したりこれを禁止したりするものではないこと,
○判決文3の(2):
本件職務命令当時,公立小学校における入学式や卒業式において,国歌斉唱として「君が代」が斉唱されることが広く行われていたことは周知の事実であり,客観的に見て,入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏をするという行為自体は,音楽専科の教諭等にとって通常想定され期待されるものであって,上記伴奏を行う教諭等が特定の思想を有するということを外部に表明する行為であると評価することは困難なものであり,特に,職務上の命令に従ってこのような行為が行われる場合には,上記のように評価することは一層困難であるといわざるを得ない。 本件職務命令は,上記のように,公立小学校における儀式的行事において広く行われ,A小学校でも従前から入学式等において行われていた国歌斉唱に際し,音楽専科の教諭にそのピアノ伴奏を命ずるものであって,上告人に対して,特定の思想を持つことを強制したり,あるいはこれを禁止したりするものではなく,特定の思想の有無について告白することを強要するものでもなく,児童に対して一方的な思想や理念を教え込むことを強制するものとみることもできない。
判決文は、2段落からなっています。
そして、文章が重複しているよう感じられるかもしれませんが、どうして段落分けされているのか、わかります?
まず、第1段落。修飾関係・各項目のつながりがラフなのはスマソ。
(e)本件職務命令当時、公立小学校の入学式・卒業式において、国歌(「君が代」)斉唱が広く行われていたことは周知の事実だ、
(f)客観的に見て、入学式の国歌(「君が代」)斉唱の際にピアノ伴奏をする行為は、音楽専科の教諭等にとって通常想定・期待されるものだ、
(g)上記伴奏に伴う教諭等が特定の思想を有するということを外部に表明する行為であると評価することは困難である、
(h)特に、職務上の命令に従ってこのような行為が行われる場合、上記のように評価することは一層困難だ、
えー、ここで注意事項。例えば、「本件職務命令当時」というのを抜かすと、マズイはず、という指摘にとどめます…。(´・ω・`)
次に、第2段落。
(i)本件職務命令は、公立小学校における儀式的行事で広く行われ、A小学校でも従前から入学式等の国歌斉唱の際に音楽専科の教諭にそのピアノ伴奏を命じるものだ、
(j)上告人に対して、特定の思想を持つことの強制・禁止、特定の思想の有無の告白の強要、児童に対する一方的な思想・理念を教え込むことの強制とみることもできない、
以上からして、「判決要旨」に使われているのは、太字の部分の(f)(g)(j)の一部と…。
次、判決要旨(3)ですが、判決文3の(3)については、長いので省略w。同じようにできるでしょう…。気が向いたら後日…。
しかし、判決要旨(3)は、判決文3の(3)だけではないですよね。
○判決要旨(3)の後半:
など判示の事情の下では,前記職務命令は,前記教諭の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するということはできない。
○判決文3の(4):
以上の諸点にかんがみると,本件職務命令は,上告人の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に反するとはいえないと解するのが相当である。
しかし、(4)は、さらに2つの段落があります。そこは判決要旨でまとめられていないのでしょうか?
いえ、違います。
だって、判決要旨(3)後半には、「など」とあるから…。
判決文3の(4)の残りの部分だけを、最高裁判決についてはリンクを付けるなど一部補正したうえで、引用。
なお,上告人は,雅楽を基本にしながらドイツ和声を付けているという音楽的に不適切な「君が代」を平均律のピアノという不適切な方法で演奏することは音楽家としても教育者としてもできないという思想及び良心を有するとも主張するが,以上に説示したところによれば,上告人がこのような考えを有することから本件職務命令が憲法19条に反することとなるといえないことも明らかである。
以上は,当裁判所大法廷判決(“最高裁昭和28年(オ)第1241号同31年7月4日大法廷判決・民集10巻7号785頁”,“最高裁昭和44年(あ)第1501号同49年11月6日大法廷判決・刑集28巻9号393頁”,“最高裁昭和43年(あ)第1614号同51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁”及び“最高裁昭和44年(あ)第1275号同51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号1178頁”)の趣旨に徴して明らかである。所論の点に関する原審の判断は,以上の趣旨をいうものとして,是認することができる。論旨は採用することができない。
まず、「なお」の段落は、上告人の別の主張の1つが、以上の説示からすると、憲法19条に反しないことは明らかだとしています。
「以上」の段落は、まず、これまでの説示は、4つの最高裁大法廷判決(順に、謝罪広告事件・猿払事件・旭川学テ事件・岩教組学テ事件)の趣旨に徴して明らかだ。
次に、所論に点する原審(高裁)の判断は、以上の趣旨をいうものであって、是認できる。
最後に、よって、論旨(上告人の主張)は採用できない、としています。
「4 その余の上告理由について」は省略。
以上のことは、補足意見を書いた那須裁判官を含む4人の裁判官(残り3人は上田・堀籠・田原裁判官)による多数意見であると…(PDF5ページ・17ページ)。
*1:厳密には、法廷意見が何名で構成されているかは、判決文の最後尾(17ページ)の署名を見ないと計算できませんが…。って、結局ほぼ「5ページでいい」って言っているようなもんぢゃん! まあ、「判示事項」の内容を読むだけならですが…。でね、こういうふうに断言したほうが、「法廷意見」と「その他の意見」の内容を、【混同しない】ことにつながるかにゃぁと…。そして、今日は書かないけれど、今後に述べるかもしれない「判例の射程」を考える上でも有益かにゃぁと…。
*2:べつに「判決要旨」でなくても良かったのだけれど、判例評釈になると、そのまんまコピペが多いような気がしたので…。
*3:池田真朗編『判例学習のAtoZ』(有斐閣、2010年)3ページ〔池田執筆〕。太字は原文の強調部。
*4:「職員は、その職務を遂行するに当つて、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」(地方公務員法32条)、「職員は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。」(同法33条)。
*5:同上、23ページ〔山田文執筆〕
*6:いつから下線が引かれるようになったのか知らにゃい…><;。だって、『AtoZ』44−45ページにも…。(´・ω・`)