特集「憲法と民法」

 先日、ある人と話していて、私人間効力論の話になった。

 そして、法学セミナー646号(2008年10月)の中のある論文が「良かった」と言われた。

 だから、その特集を読んでみた。




 その人が、「良かった」と言った論文は、樺島博志「環境をめぐる憲法民法」23ページ以下だった。

 この論文は、環境利益をめぐる利害対立につき、三面関係に着目して、四つの類型に分けて公法関係・私法関係を分析するもので、確かに分かりやすいとは思った。

 ただ、(勉強不足を棚に上げて)1つ分からないところをあげるとすると、裁判所の審査基準・統制密度を、「判断代置型の厳格審査」・「合理性審査」・「明白性の審査」の3つに分ける点。具体的に言うと、

 まず、「判断代置型」と「厳格審査」の関係(及び憲法上の権利とその他の法的利益の関係。)。

 次に、国の受益的当事者に対する規制については、精神的自由権・人格権が争われているわけでないから「合理性審査」または「明白性の審査」になるのに対して、その規制を不利益的当事者*1が争う場合、その規制行為が裁量行為であることを前提に、「合理性審査」または「明白性の審査」になるとする点。つまり、「判断代置型」「厳格審査」が出てこない…。行政法の裁量統制でいうところの「判断代置型」をとったとされる下級審判例は「まずい」の?

 まあ、「どこまで説得的に評価したかが法的議論としては重要であり、どの審査基準を使ったとか結論とかは二の次」*2なのかもしれないけれど…。

 仮に「判断代置型」を採用したとして、(日本において)専門技術的に適正な判断をしているはずの行政庁の判断と同じ見地から裁判所が厳格に審査したとしても、行政庁の判断を追認するだけなのかもしれませんし…。

 いや、この論文に対して嫌味を言っているわけではないので…(^^;。



 私が「目新しい」と思った論文は、森田果「法セミとじて経セミひらこう」33ページ以下。

 さすが、某巨大学会*3のワークショップにおいて「お前のものは俺のもの」なんて挑戦的なメインタイトルをつけられるだけのことはある…(^^;。

 37ページの注6を読んで笑ってしまったけれど、それよりも、36ページの「暴力的な映画の上映は犯罪発生件数を減らすという関係の存在を実証した」2007年のWorking Paperの紹介かな…。



 あとは、2つほど揚げ足取りを…。

 まず、山元一「<法構造イメージ>における憲法民法」12ページ。

 日本国憲法81条1項は、自らを「最高法規」として位置づけたうえで、「その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない」とし、…違憲立法審査権司法権に与えている(同81条)。 (強調部は、しが研がおこなった。)

 初学者向けの学習雑誌ですから、条文を引用しておきましょう。

日本国憲法
 81条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
 98条1項 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

 「日本国憲法81条1項」⇒「日本国憲法98条1項」ですよね…(^^;。



 次に、山本敬三「憲法民法関係論の展開とその意義(1)」22ページ注2)には、「契約関係」という略語を使う旨書かれています。しかし、続編の同「憲法民法関係論の展開とその意義(2)」法学セミナー647号(2008年11月)47ページ注16)には「契約侵害」と…。細かいですね><;。

 それはさておき、山本敬三・前掲論文10月号の22ページ注2)には、重要な論文が並んでいる。山本氏ご本人のものを除き、かつ、書籍に限ると、田島泰彦・山野目章夫・右崎正博編著『表現の自由とプライバシー』(日本評論社、2006年)広中俊雄先生傘寿記念論集『法の生成と民法の体系』(創文社、2006年)の一論文(中村哲也・執筆)宮澤俊昭『国家による権利実現の基礎理論』(勁草書房、2008年)の3冊。

 また、10月号の特集の執筆者7名のうち3名が民法研究5号(信山社出版、2008年5月)に言及している…。

 これらの書籍が、近くの図書館にあるのか、また、あったとしても貸し出されていないか?

 いずれにせよ、海外のへんぴなところに在住する私は、輸入しないと入手できなかったりして…。(´・ω・`)

*1:“Benachteiligter”って、頭文字は“B”のはずなのに、“N”になっている。市民ってこと?

*2:宍戸常寿「特別の公法上の関係」法学セミナー647号(2008年11月)82ページ

*3:学術団体です。