形式と実質

 憲法の教科書に出てくる「形式的○×」・「実質的○×」を思いつくままに列挙して、簡単にコメントしてみます。まあ、こういう区分も・・・(´・ω・`)。




 まず、「形式的○×(形式的意味の○×)」・「実質的○×(実質的意味の○×)」の一般的な定義を。

 「形式的○×」:○×という名を持つものを指す
 「実質的○×」:○×の名にふさわしい内容を持つものを指す

 上の一般的定義から想像できるように、

 「形式的憲法」:憲法という名を持つもの、すなわち、法典となった憲法憲法典を指す
 「実質的憲法」:憲法というにふさわしい内容を持つもの

 で、通常、イギリスは、憲法典がないが、憲法というにふさわしい内容を持つものがあるから、「形式的憲法」はないけれども、「実質的憲法」はある、つまり、不文憲法が存在するといわれるわけです。

 また、日本において、日本国憲法があるから、形式的憲法は存在する。日本国憲法は、憲法にふさわしい内容を持っているから、「実質的憲法」であると。

 ところで、では、「形式的憲法」と「実質的憲法」の関係は?と問われると、わからなくなる方がいらっしゃるかもしれません。つまり、日本では、なんとなく、日本国憲法=「形式的憲法」=「実質的憲法」という等式があるように勘違いされている方がしらっしゃるかもしれないということです。

 つまり、ここで言いたいのは、日本国憲法(「形式的憲法」)の中に、「実質的憲法」ではない部分があるのではないのか、また、逆に、「形式的憲法」以外に、「実質的憲法」が存在しないのかという話です。

 「実質的憲法」の定義(憲法いうにふさわしい内容とは何なのか?)によりますが、「形式的憲法」と完全に一致するわけではなく、一致していない部分がある、のかもしれませんね。


  • 「形式秘」と「実質秘」

 教科書の順番によりますが、オーソドックスな教科書で、憲法総論⇒人権⇒統治機構と書かれているものですと、次にでてくるのは、この話でしょうか。公務員の「秘密」を守る義務に関連する問題です。上の一般的定義から想像できるように、

 「形式秘」:国家が「秘密」であると指定したもの
 「実質秘」:「秘密」というにふさわしい内容を持つもの

 これも同じように考えると、完全には一致しないことが想像できるでしょう。国家が秘密文書だと指定しても、裁判所が、「秘密」として保護に値しないと判断すれば、公務員が守るべき「秘密」には該当しないということになります。逆に、国家が秘密文書と指定していない場合にどうなるのか・・・。(´・ω・`)


  • 「形式的立法」と「実質的立法」

 これは、憲法41条の「国会は、・・・唯一の立法機関」の「立法」の解釈問題です。

 「形式的立法」:法律(○○法)という名のついたもの、又はその定立行為
 「実質的立法」:国会が法律として定めるにふさわしいもの、又はその定立行為

 これも、同じように考えると、完全に一致しないことが想像できるでしょう。通説は、憲法41条の「立法」を「形式的立法」と捉えると、トートロジー(同義反復)、すなわち、「国会は、法律を定める機関である。法律とは国会が定めるものである。」ということで、循環してしまって、定義になっていないとして、「実質的立法」だと考えます。

 そして、「実質的立法」の範囲が議論されてきました。

 しかし、先ほどからいっていますように、完全には一致しないわけでして、国会は「実質的立法」以外の内容を法律として定めることが出来る場合があるし(「形式的立法」)、国会以外の機関が、「実質的立法」の内容を、別の法形式で定めることも、定めることができる場合があるわけです。このへんまでは、皆さんご存知のはず。

 で、その一致しない部分の限界をどう考えるのか・・・。(´・ω・`)


  • 「形式的行政」と「実質的行政」

 これは、憲法65条の「行政権は、内閣に属する」の「行政」の解釈問題です。

 「形式的行政」:○×省などの行政機関とされているもの
 「実質的行政」:内容的に把握して、行政に該当するもの

 通説は、先の「立法」及び後述する「司法」を実質的に解して、国家権力から「立法」と「司法」を差し引いた残余の部分が「行政」にあたると考えます(控除説)。より正確に言えば、国家権力は、国家と国民との関係とか国家作用といったほうがいいのかもしれません。意外と、控除説は、「実質的」に把握した場面であることをご存じない方がいらっしゃるかもしれませんね。

 また、さきほどと同様、「形式」と「実質」は完全に一致しませんから、例えば、国会や裁判所が、実質的な行政を行う場合もあれば、逆に、行政機関が、実質的な立法や裁判(?)も行う場合があるわけですよね。

 さらにいうと、一般にいわれる三権分立は、さて、「形式的○×」の話なのか、「実質的○×」の話なのか?3つの権力の分立ではなく、もっと他にもあるんでしょうか、ねぇ〜。(´・ω・`)


  • 「形式的司法」と「実質的司法」

 これは、憲法76条の「すべて司法権は、最高裁判所・・・に属する。」の「司法」の解釈問題です。

 「形式的司法」:裁判所に属するもの
 「実質的司法」:内容的に把握して、司法に該当するもの

 これも完全には一致しません。ですから、「実質的司法」に当たるものであっても、他の国家機関が行う場合もあるし(例:弾劾裁判、行政審判も?)、「実質的司法」にあたらないものであっても、裁判所が行うものがあります(例:司法行政権、規則制定権)。



結構ごまかして書いてますので、このへんの発想をスタートラインにして、教科書のみならず、憲法やその周辺で重要な法律の条文を読んではいかがでしょうか?